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運航維持へ異例の対応(日本経済新聞2010/02/01)

企業再生

運航維持へ異例の対応
商取引保護 支払い不安解消
稲盛氏、国際線巡る決断へ
 事業会社としては過去最大の負債総額を抱えて経営破綻し、公的管理下で再建を目指す日本航空。法的整理入りの前後も普段通りの運航を続けるため、東京地方裁判所をはじめとする関係者は異例の対応策をとった。裁判所の監督下で負債の重荷を減らすだけでなく、顧客や取引先の動揺を防ぎ企業価値を守るためには法律面でどんな手当てが必要か。事業再生の新たなひな型作りの準備が昨年10月下旬から水面下で始まっていた。
日航の法的整理、昨年10月から準備
 日航が東京地裁に会社更生法の適用を申請したのは1月19日。その数日前、羽田空港にほど近い同社の本社20階に、コントロールルームと呼ばれる部屋が急きょ設けられた。そこで臨戦態勢を敷いたのは日航や企業再生支援機構のスタッフと更生法申し立て代理人の南賢一弁護士ら約40人だ。資金、運航継続、収入維持、コミュニケーションの4班に分かれ、不測の事態に備えた。
内外で弁護士待機
 成田や羽田だけでなく、鹿児島、沖縄などの地方空港にも弁護士を配置した。この日、投入された弁護士は国内だけで50人を超える。海外でもロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、北京にも日本人弁護士を待機させ、22カ国で現地の法律事務所を起用した。
 関係者が警戒したのは、法的整理を機に内外の取引先が動揺してジェット燃料などの納入をやめ、旅客機が世界中の空港で足止めされることだ。今回、法的整理に入ったのは日本航空と運航子会社である日本航空インターナショナル、金融子会社のジャルキャピタルの3社だけ。対象外の関連会社に対し、取引先が債権回収に走るなどして、グループ会社の経営に悪影響が出るのを防ぐ必要もあった。
 更生法手続きの開始が東京地裁で決まると担保権の行使などが禁止され、その効果は日本法上、海外にも及ぶ。ただ、実際の効果があるかどうかは主権の関係から外国の法制度に左右される。自動承認する国もあるが、米国では別の司法手続きが必要だった。「日本国の倒産手続きの承認を求める」――。日航は同日、米裁判所にこんな申し立てをした。
 南弁護士は更生手続き開始決定から最低1週間ほどの臨戦態勢を覚悟していた。だが大きな混乱がないことから、4日後にはコントロールルームを離れた。
 日航が背負う巨額負債の削減手法を巡っては、金融債権者などとの合意による私的整理と、更生法の多数決による法的整理の2つの選択肢があった。「法的整理なら運航に障害が出る」――。昨秋、私的整理を主張する日航や銀行、国交省関係者はこう警告した。「更生手続きに対する風評被害だ」。更生法を担当する東京地裁民事8部の裁判官は苦々しく思っていた。
 企業再生支援機構は早々と発足直後の昨年10月下旬から瀬戸英雄・企業再生支援委員長を軸に、民事8部と水面下の協議に入った。法的整理を再建策の選択肢にできるか見極めるのが目的だった。
 更生法を活用すると倒産のマイナスイメージがつきまとうものの、裁判所の監督下で債務を迅速に削減でき、手続きも透明だ。一方で、ジェット燃料などを購入する際に発生した一般の商取引債権なども削減対象となり、取引先に迷惑をかけてしまう。代金の取りはぐれを恐れて取引を手控えられれば、旅客機を飛ばすことができなくなる。
 多数の乗客や企業が利用する日航が法的整理を使うには、裁判所が(1)巨額の商取引債権の保護(2)更生手続き開始決定直前の融資への優先的な支払い(3)支援機構の管財人への就任(4)申し立てと同時の開始決定――を認めてくれる必要があった。課題の解決にメドがつき、法的整理の方向がほぼ固まったのは2カ月後の2009年の暮れのことだ。
 課題は具体的にどう解決されたのか。
 例えば日航にジェット燃料や機内食などを納入する企業が保有する商取引債権。東京地裁は今回、80億円規模のものを含め、商取引債権は全額保護することを決めた。更生法が適用されても少額債権を早期に支払うことはできる。中小企業の連鎖倒産を防ぐためなどだ。ただ、東京地裁がこれまで、運用上認めてきたのは多くても1億円前後だったようだ。今回、地裁は商取引債権について大口の金融債権に比べれば「少額」と判断。運航が止まれば企業価値が損なわれ金融債権者への弁済率がかえって悪くなるため、一般の商取引債権保護が不可欠と考えたようだ。
 法的整理に持ち込む場合、その前後の運転資金をどう確保するかも関係者の悩みの種だった。支援機構は支援決定前に融資できない。事前調整型の法的整理手続きが定着している米国と違い、日本ではつなぎ融資の保護ルールは未整備だ。これでは運転資金を確保しようにも、更生手続き開始決定直前のつなぎ融資も削減の対象となり、金融機関の協力を得るのは難しい。
 頼みの綱は日本政策投資銀行だが、政府が全額出資する同行といえども既に日航向けで巨額の不良債権を抱えており、安易な融資継続は難しかった。結局、更生手続き開始直前に政投銀が日航に融資した2千億円は優先して支払いを受けることになった。政投銀は総額6千億円の機構との協調融資枠の設定にも応じた。1年分の支払額に匹敵するこの見せ金に取引先は安心し大きな混乱が回避できた。
「再建への入り口」
 「私自身、当初、法的整理は嫌いだった」。旧・日本興業銀行出身の西澤宏繁・支援機構社長はこう打ち明ける。西澤氏はこのほど東京地裁を訪れ、集まった10人ほどの裁判所関係者に謝意を伝えた。「再建を図るという更生法の精神を大事にして我々も努力するので、機構も特段の善管注意義務を果たして下さい」。菅野博之・民事8部長はこう応じたという。
 日航は金融機関の債権の大幅カットにより「バランスシートは改善されるが、再建への入り口にすぎず、収益改善に向け事業再構築が欠かせない」(西澤氏)。再建に向け同社は既にグループ人員の3割削減や国内不採算路線の撤退などを打ち出した。しかし海外大手の提携先の選定などを含む国際線の事業戦略は固まっていない。
 このため、かねて法的整理を求めていた峰崎直樹財務副大臣は「新政権の供給過剰対策として評価できる面もあるが、重要課題を積み残した」と話す。昨年暮れの関係閣僚会議で国際線の切り離しを主張する峰崎氏と激しくやり合った前原誠司国土交通相は先月、全日本空輸との2社体制見直しの可能性を示唆した。
 「大善は非情に似たり」。日航会長の就任要請を受けた際、稲盛和夫京セラ名誉会長はこう漏らした。先月25日から日航本社に入り、社内事情の把握に動いた稲盛氏。経営トップとして国際線を巡る決断も早晩、迫られる。
日本航空再建への予定

2010年02月01日