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会計残された課題(2)リース取引――「簿外」規定、存廃で攻防(日経新聞2006/03/16)

会計基準関係

 伊藤園は有価証券報告書の中で、「事業リスク」として珍しい項目を挙げている。リース会計基準が変更された場合のリスクだ。「資産及び負債の増加で総資産利益率(ROA)などの経営指標に影響を及ぼす可能性がある」

業界は猛反発
 現行のリース会計基準では、一定の条件を満たすリース資産を、貸借対照表(バランスシート)に計上しなくてよい「例外規定」がある。伊藤園は自動販売機をリースで調達しており、自動販売機を貸借対照表に計上していない。
 仮にリース会計の例外規定が廃止されると、自動販売機を資産計上しなければならない。伊藤園の総資産は現状より三割弱増える計算になる。本庄八郎社長は「バランスシートが見かけ上膨らんでも経営に問題はない」と明言する。
 だが、資産が膨張する可能性は現実のものになりつつある。企業会計基準委員会が、例外規定を廃止し、リースで取得する設備を資産計上する会計処理に一本化する方向で、リース会計を見直す議論を昨年暮れから再開したからだ。
 例外規定といいながら、現状ではほとんどの上場企業がリース資産を計上していない。会計士や専門家の間では、例外規定があると貸借対照表が実態を表さなくなると批判する声が多い。例外規定は日本独特のものである点も問題だ。
 猛反発するのがリース業界だ。国内の民間設備投資の一割はリース調達によるもの。リース事業協会の平井康之会長(ダイヤモンドリース会長)は、「会計が産業を殺すのか」と憤りを隠さない。会計基準が変わるとリースの税務に影響し、リース取引そのものが激減しかねないというのがリース業界の主張だ。
 リースで機械を取得すると企業は通常、定額のリース料を毎月、リース会社に払う。税務上もリース料を損金にできる。ところが、例外規定がなくなり、企業が資産計上すると決算上はリース料ではなく、減価償却費が費用として発生。リース料の税務上の扱いが微妙になるうえ、経理事務も煩雑になる。結果、リース取引の利便性が消え需要がなくなるというのが関係者の危惧だ。
 全日本空輸が九日に実施した二十二年ぶりの公募増資約千億円も、関係者の間では新たなリース離れを象徴する動きとして受け止められている。全日空は従来、リースを活用して航空機の多くを取得してきた。大規模な資金調達を機に、自社で直接購入する手法に移行する可能性が高い。

税務と調整なし
 会計基準委は「会計基準を作るのが役目で、税務まで考える機能がない」として会計の論理だけを前面に出す。税務問題を懸念する産業界と議論がかみあわず、四年近く前にリース会計の見直しに着手したものの、まだまとまっていない。
 会計基準委は今回、例外規定をなくした新ルールを作っても「税務との調整を含む環境条件を総合的に勘案」したうえで、適用時期を決める方針を打ち出した。一応、新ルールを作った場合の適用時期をぼかすことで、税務への配慮をみせたとみられる。
 リース業界は監督官庁である経済産業省に税務当局との折衝役を期待する。しかし「会計基準案が完全に固まらない段階では動きづらい」(取引信用課)と及び腰だ。
 国際会計基準を採用しているフランスやドイツでは、連結決算上はリース取引を資産計上するが、税務の基準となる単独決算では資産計上はせず、他国でも苦肉の策がみられる。リース会計は税務が絡むだけに、会計の論理に終始するわけにもいかず、関係者が着地点を探る動きが続きそうだ。

▼リース会計
 企業の設備投資は、自社で買うか、リース会社から借りるか、二つの方法がある。
 リース取引の中には、中途解約できないなど、実質的に購入したのと変わらないものがある。リース会計は、リースで借りた資産をあたかも購入したかのように、財務諸表に反映させる会計処理方法だ。
 日本のリース会計には、リース期間終了後、設備の所有権が借り手に移らない場合は、資産計上しなくてよい「例外規定」があり、国際的な会計基準と異なっている。

2006年03月16日