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会計残された課題(3)年金債務――「代行部分」の扱い焦点(日経新聞2006/03/17)

会計基準関係

 企業会計基準委員会が今月九日に開いた第百回目の会合。一部の委員が年金会計を巡り激しくやり合う場面があった。
 「年金会計は企業の財政実態を表していない」
 「現状の会計処理以外は、現実的に考えにくい」
 結局、斎藤静樹委員長が「パーマネント(恒久的)な結論は出せない」と発言。議論は平行線のまま打ち切られた。

企業に責任なく
 議論の的は、企業が抱える厚生年金基金に絡む年金債務を、企業の決算書にどう反映するかという点だ。厚年基金は、国が運営する公的年金から、資金を一部回してもらい、企業独自の年金と合同で運用する。国から代行した部分を「代行部分」と呼び、基本的に代行部分で生じる年金債務は企業に責任がない。
 ところが、現行の年金会計では、代行部分の債務も含め、年金債務として企業の決算書に反映する。最終的には国が責任を負うはずの債務が、企業の貸借対照表に計上されている。
 「三度も要望・質問書を送ったのに理解してもらえないのは残念だ」。企業年金連合会の安部泰史数理部長はぼやく。連合会は昨年十二月、「なぜ代行部分を債務認識する年金会計を見直さないのか」と六ページに渡る質問書を会計基準委に提出した。
 二〇〇四年の厚生年金保険法の改正で、基金を解散する場合などに確保すべき金額「最低責任準備金」を超える部分に対して、企業は責任を負わないことが明確になった。年金関係者の間では「負担が無いものを債務認識するのはおかしい」(三菱UFJ信託銀行の佐野邦明・年金コンサルティング部長)との声が多い。
 年金会計が導入された当初、日本公認会計士協会が出した実務指針でも、基本的な前提が変更された場合、代行部分の取り扱いを再検討するとした。年金関係者は「約束が違う」と主張する。
 これに対し、会計士らは「国に返上しない限りは、代行部分も含め一つの基金。分けて考えるのは筋が通らない」と押し切る。公的年金の「代行」は日本固有の制度で、海外に参考例はない。会計基準委は結局、代行部分の債務を従来通り企業の決算書に反映する「当面の取り扱い案」を十六日に公表した。

減少続く基金数
 議論が白熱する一方、代行部分を持つ厚年基金そのものが激減している。一時は千二百基金(総合型を除く)あった厚年基金は、今月一日現在で百六十六基金まで減少。オンワード樫山やプロミスなども代行返上を決め、基金数はさらに減りそうだ。ある会計士は「代行部分を気にするなら、さっさと返上すればいい」と突き放す。
 しかし、代行部分を抱えることで年金基金の資金規模が拡大し、効率的に運用できる利点があるのも見逃せない。会計基準の変更で債務が減るのであれば、代行返上は避けたい企業もある。
 丹青社は七月に予定する代行返上で、年金資産が四十億円弱からほぼ半減する見通しだ。年金債務は減るが、運用効率が低下する。同社の岡幹雄・人事部長は「返上すべきかどうか議論はあった」と苦渋の決断だったことを明かす。
 年金会計は日本で二〇〇一年に導入して以降、企業の貸借対照表や財務戦略に大きな影響を与えてきた。年金会計の導入で膨大な債務が顕在化し、年金制度の改革や代行返上ラッシュの引き金になった。将来の給付額の予測値を織り込む年金会計はそもそも、会計基準の中でも特に複雑でわかりにくい。日本固有の年金制度の問題も加わるため、議論が簡単には終息しない。

▼年金会計
 企業が今後負担する年金や退職一時金を債務として認識させる制度。将来の必要額のうち現在までに支払い義務が発生した金額を、割引率という一定の利回りを使って、現時点の必要額に換算する。この金額を退職給付債務と呼ぶ。
 企業年金連合会の試算では、厚生年金基金が抱える代行部分の退職給付債務は合計三兆円強ある。これに対して、企業側に責任がある「最低責任準備金」は一兆五千億円で、同連合会は「必要以上に年金債務が認識されている」と主張する。

2006年03月17日