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会計残された課題(4)(終)基準共通化――国際ルールと調和急務(日経新聞2006/03/18)

会計基準関係

 関東つくば銀行は十日、茨城銀行との合併撤回を発表した。突然の翻意の背景には、合併・買収の会計処理を定めた「企業結合会計基準」が今年四月から適用になることがある。

のれん代で溝
 「このまま合併しても新銀行が立ち行かない」と、関東つくばの草間卓頭取は破談の理由を説明した。合併で生じる「のれん代」が想定以上に膨らむためだ。
 新基準では原則、合併は株式を対価とした買収とみなす。合併のために発行する株式の時価が買収価格だ。買収価格と被合併会社の純資産の差額は、のれん代として資産計上し二十年以内に償却しなければならない。
 関東つくばと茨城銀の合併は七月の予定だったので、新基準の適用対象になる。誤算は、買収側になる関東つくばの株価上昇だ。高い株価で株式を発行する形になるため資本は増強されるが、比例してのれん代も増加する。のれん代が想定の十倍に膨らみ、その償却が利益を減らす要因になるのは確実だった。
 のれん代は国際会計基準や米国基準では償却しない。日本の企業会計基準委員会と国際会計基準理事会(IASB)が三月初め、共同記者会見を開いた席上でも議論が再燃。D・トウィーディーIASB議長が「のれん代を償却しないことは欧米で評価されている」と言えば、会計基準委の斎藤静樹委員長は「のれん代を償却せずに、なぜ他の資産は償却するのか」と応酬した。
 会計基準に国際的に異なる点があると、海外での資金調達に影響を与える。欧州連合(EU)は域内で資金調達する日本企業に対し、国際会計基準に沿った決算情報の開示を義務付ける方針だ。EUの証券規制委員会は昨年夏、日本基準と国際基準の大きな相違点二十六項目を公表。企業の負担となる追加的な情報開示を避けるには、日本基準を国際基準に合わせる必要がある。
 EUは二〇〇七年から域外企業に国際基準での開示を義務化する方針だったのを、二年ほど先送りする見通しと伝えられるが、日本の会計基準委も座視しているわけではない。日本基準と国際基準との違いを解消する「共通化」作業を、IASBとの間で昨年から開始。今年五月からは米国の財務会計基準審議会(FASB)とも定期協議を始める。

米欧の調整先行
 だが、米国は先行してIASBとの基準統合を進めている。二月二十七日には統合作業を加速する旨の合意文書も交わした。両者はすでに明確になっている主な相違点の解消を〇八年までに終える計画だ。日米欧三つどもえの構図に見えながら実際はIASBと米国の擦り合わせが世界的な基準共通化の軸となる。
 IASBのトウィーディー議長は、「日本は古い問題に時間をかけるのではなく、現在の国際基準との共通化を早く済ませ、新たな基準作りに積極的に参加すべきだ。残された時間は少ない」と警告する。
 カナダや中国、韓国、イスラエル、チリなども相次ぎ国際基準を導入する方針。数年以内に適用国は百五十カ国に及ぶ見通しだ。いくら日本の会計独自の理念や論理的な正当性を主張しても、世界的な流れから取り残される懸念がある。
 十四日午前の自民党の企業会計小委員会。「国際的な基準共通化に乗り遅れて、日本企業が劣後することがないようにしてほしい」。昨年まで会計小委員会の委員長を務めていた塩崎恭久外務副大臣が、会計基準委の幹部を前に強く訴えた。(おわり)

▼国際会計基準 世界各国で活用することを目的に国際会計基準理事会(IASB)が作成する会計基準。米国会計基準と並ぶ世界二大会計基準の一つで、採用国が増えている。企業の財務内容を世界的に同じ基準で比較できるようにするため、IASBの前身組織が一九七三年から活動を開始した。
 IASBは十四人の理事で構成され、英米の影響力が大きいとされる。日本は理事を一人送り込んでいるが意見はあまり反映されず、日本の経済界から不満が出ている。

2006年03月18日