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監査不信-中央青山カネボウのつめ跡-上(日経新聞2006/03/31)

公認会計士の職業倫理

 カネボウ事件で、証券取引法違反罪に問われた元中央青山監査法人の会計士ら三人が三十日、初公判で起訴事実を認めた。元社員が粉飾に加担する背信行為を認めたことで、中央青山に対する視線は一段と厳しさを増す。

監査不信-中央青山カネボウのつめ跡(上)
粉飾再発防止に躍起
海外提携事務所が支援

 カネボウ事件で、証券取引法違反罪に問われた元中央青山監査法人の会計士ら三人が三十日、初公判で起訴事実を認めた。元社員が粉飾に加担する背信行為を認めたことで、中央青山に対する視線は一段と厳しさを増す。傷付いた信用を取り戻すべく改革を急ぐ中央青山の現状と、戸惑う監査先企業の動向を追う。
 三月二十日、東京都千代田区の霞が関ビルにある中央青山の本部。国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のサミュエル・ディピアザ最高経営責任者(CEO)は朝から晩まで、中央青山の幹部や若手らとの会合を次々とこなした。
 ディピアザCEOは「カネボウは中央青山だけでなくPwCの問題でもある。中央青山の改革を支援する」と繰り返した。四大監査法人はそれぞれ海外の会計事務所と提携している。トヨタ自動車など優良企業を顧客に持つ中央青山の信用失墜は、PwCにも看過できない。
 会合に先立つ二月にも、中央青山の奥山章雄理事長がロンドンに飛び、PwCの幹部らと協議。「改革路線を全面支持する」との言質を取り、PwCからの改革支援チームの受け入れなど、新たな改革策について記者会見も開いた。
 中央青山は同時に、監査の問題発生を防止する取り組みや品質向上に向けた改革に躍起だ。「在庫や投融資、固定資産、繰り延べ税金資産の評価と連結範囲に、特に注意しろ」。中央青山は三月期決算企業の期末監査が本格化するのを前に今月、研修を実施した。
 監査を担当している上場企業約八百社について、粉飾が起きる可能性の高さなどを独自に評価。百二十八社を高リスク企業として抜き出し、ベテラン会計士が重点的に審査した。それ以外の上場企業についても、まず三月期決算企業は今月中に総点検を終える。「もう第二のカネボウは許されない」(奥山理事長)との危機感がある。
 改革はスピードがついてきた半面、過去の検証は十分ではない。元検事ら独立した第三者に参加してもらった「カネボウ事件調査委員会」による調査は難航している。関係書類が押収されているほか、当事者に事情を聴けないため、なぜ粉飾が発見できなかったのか真相はまだ明確になっていない。
 足利銀行やヤオハンジャパン、山一証券など、中央青山の監査先では過去にも問題が相次ぎ表面化した。合併を繰り返し大きくなった法人の成り立ちもあり、監査業務の組織的な管理体制作りが後手に回ったとみる同業者もいる。中央青山は体質改善のため、監査部門をいったん解体し、監査先の産業別に再編成する方針だ。
 残る最大の不安材料は、金融庁が中央青山に対し、いつどのような行政処分を下すか。業務停止など処分の内容次第では、中央青山が監査を担当している企業で、決算書の作成に支障が出る恐れがある。
 監査を巡る問題は、中央青山に限った話ではない。金融庁は三十日、監査法人トーマツに対し、監査先企業の粉飾決算を見過ごしたとして戒告処分を行ったと発表した。早稲田大学法学部の上村達男教授は「会社のためでなく、証券市場のために監査するという意識が、会計士には乏しいように見える」と話す。
 中央青山の改革の成否は、日本の会計監査制度が、投資家の利益を最優先したものに変われるかどうかの試金石でもある。

 ▼中央青山監査法人 一九六八年に設立された監査法人中央会計事務所が前身。二〇〇〇年に青山監査法人と合併し、現在の中央青山監査法人となった。今年一月末現在で公認会計士二千五百八十七人(会計士補含む)を抱え、ソニーや新日本製鉄、NTTなど上場企業約八百社の会計監査を担当。新日本、あずさ、トーマツとともに国内四大監査法人の一角を占めている。

2006年03月31日