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試練の新興株市場-2000年組のつまずき(中)「人脈経営」に限界(日経新聞2006/07/27)

その他

安直買収、icf業績悪化
 ライブドア元取締役というよりも「日本人初の宇宙旅行者になる」との話題で知られる投資家の榎本大輔氏(35)。東京国税局が二〇〇四年までの三年間に保有株の売却益三十億円の申告漏れがあったことを指摘していたことが発覚した。関係者によると、申告漏れの対象となった株はライブドア、アイ・シー・エフ(icf)などだ。
 icfは中古建設機械の電子商取引市場の運営を主力事業として、〇〇年十月に東証マザーズに上場した。企業としての知名度はそれほど高くないが、M&A(企業の合併・買収)ブームに便乗した代表企業の一つとして知られる。
トップが不在
 そして、いま「経営不在」の状況に追い込まれた。M&Aを陣頭指揮した佐藤克社長(31)は業績悪化で引責辞任を発表したものの、六月の定時株主総会で出席者が足りず、後任社長への交代は八月の臨時総会以降に持ち越されたからだ。
 大学在学中にソフト会社を起業した佐藤氏がicf社長に就任したのは〇三年十月。再建のために繰り出したのがM&Aだ。〇四年から二年間で十六社を傘下に収めた。買収を発表すると業容拡大期待で株価は急上昇。時価総額は社長就任時の二十九億円から〇五年五月の四百六十二億円まで約十六倍に膨らんだ。
 これほど多くの買収を繰り返すことができたのは、すべての案件で株式交換の手法を使い、ほとんど現金の支払いなしに企業を買うことができたのが一因。「買収=成長」を短絡的にはやす目先筋の投資家に支えられた株高効果が大きかった。
 「人と人をつなぎ世界一のネットワークをつくる」と自負していた佐藤社長の人脈で、多くの案件が持ち込まれたこともM&Aを後押しした。〇四年十二月から約半年間、最高戦略顧問に就いたライブドア元役員の榎本氏も実は、佐藤社長とは「親しい飲み仲間」(ライブドア幹部)だ。
手続きずさん
 だが、農薬製造会社など本業との相乗効果が乏しい企業にまで触手を伸ばした、安直なM&Aが成果を出すのは難しい。
 手続きもずさん。昨年五月に買収した駐車場運営会社、エイチ・エヌ・ティー(HNT)の場合、icfの発表資料にはライブドア事件で公認会計士二人が起訴された港陽監査法人が株式価値の評価をしたとある。買収する企業の価値を算出し、株式交換比率を決めるのに欠かせない作業だが、内部資料には「正式なデューデリジェンス(資産査定)を行っておらず、資料に虚偽記載や誤謬(ごびゅう)がない前提」とある。
 M&Aに詳しいある弁護士は「監査の専門家の監査法人が、もらった財務資料をうのみにするのはおかしい」と指摘する。佐藤社長は二十六日、「退任する身なので答えられない」と語り、詳しい説明を避けた。
 HNTは十四億円相当の新株発行で買収したが、貸し付けた十八億八千万円が回収困難となった。五億六千九百万円に上るHNTの減損処理も、〇六年三月期に五十五億円の最終赤字に転落した要因のひとつ。M&Aへの期待は失望に変わり、株価はピーク時の七%で低迷する。
 新興市場では成長速度の速い企業がもてはやされ株高を実現することが多かった。だが買収で見かけ上の事業規模を拡大しても、企業の価値は上がらない。その当たり前の判断を誤ると、投資家は手痛いしっぺ返しを受けることになる。

2006年07月27日