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内部統制原案を分析(日経金融新聞2006/11/27)

内部統制

外部委託先も点検義務化
 金融庁の企業会計審議会(長官の諮問機関)は上場企業に二〇〇八年度から義務づける内部統制ルールのガイドライン案を公表した。財務諸表を作る社内管理体制がきちんとできているか、広くチェックする制度だ。不正を未然防止するため、監査法人による外部監査も義務づけた。経営者や監査法人が守るべきガイドラインのポイントを点検してみた。
管理不備なら公表
監査の目安「サンプル25件」
 ガイドライン案は問題事例について、組織内の手続きを経ていない未承認取引や土地などの不正売買、一般的な法令違反や財務報告の虚偽記載など幅広く定めた。企業はこうした問題を生む内部管理の不備がないかチェックする必要がある。
 不備があった場合、企業は決算期中に是正できる。ただ、期末までに是正できなければ、投資家の公表対象となる。「重要な欠陥」として投資家に公表する目安は、不備が見つかった部門や取引などの合計額が税引き前利益の五%程度を超える場合と規定した。
 ただ、金額が基準未満でも公表を義務づける例がある。例えば親密取引先や大株主の管理に不備が見つかった時。西武鉄道のように名義株が発覚し上場廃止になった事件を踏まえた。このほかにも融資打ち切りなど銀行との契約上決められた特別な財務諸表の修正につながる場合は公表を義務づける。
 チェックの範囲には国内外の子会社、関連会社など連結グループ会社に加えて、システムなどの外部委託先も加えた。委託元の企業が責任を負う仕組みで、委託先へのサンプル調査を実施し、委託業務の中に不正がないか確認するよう求めている。
 経営者はこの範囲でまず、マニュアルや情報の共有化、監査役などの内部監視機能に不備がないか総点検する。次に決算書を作る経理部門と経理以外の業務部門・拠点の二つに分け、細かい業務の状態を点検する。
 企業は業務の流れを把握できるよう、フローチャートなどを使い文書化する必要がある。この作業量が膨大になることを勘案し、金融庁は業務部門・拠点に限り、チェック範囲の絞り込みを認めた。連結売上高の三分の二をカバーする範囲を目安としている。
 その一方、経営者が実施した一連の評価手続きが妥当かチェックする役割を負うのが監査法人。例えば、受注契約のうち「金額入力ミスの発生リスク」について、注文書や出荷指図書などを照合し、責任者の承認を得ているか文書で確認する。大企業になるとこうした項目が一千単位に上り、さらに受注契約だけで膨大な数が存在する。
 金融庁は全項目をチェックするのは不可能として、数値により監査の目安を示した。監査法人は日常的な取引をチェックする場合、一項目当たり最低二十五件のサンプル調査を実施すれば九〇%程度の監査の信頼性を確保できると定めた。

こうなる
毎年度作成→監査法人チェック→投資家に宣誓
 会計審は来月二十日まで一般から意見を募り、来年一月にガイドラインを最終決定する。〇四年ごろに起きた西武鉄道やカネボウなどの有価証券報告書の虚偽記載事件を機に導入の検討を始め、二年がかりで制度の詳細をまとめた。
 チェックの流れはまず経営者が企業の社内管理体制が適正か点検し、自己評価した内部統制報告書を毎年度つくる。そのうえで監査法人がその評価が妥当かどうか第三者の目でチェックする。
 ウソがなければ、経営者は金融庁に報告書を提出し、投資家に問題がないことを宣誓する。監査法人の指摘で問題があれば、「重大な欠陥」と書かれた報告書を金融庁に提出し、投資家に問題の中身や決算への影響度合いを公表する。

八田内部統制部会長に聞く
経営者の説明責任重く
 内部統制ルールは企業にとって過度な負担になる懸念はないのか。金融庁の企業会計審議会の内部統制部会長を務める八田進二青山学院大学大学院教授に、内部統制ルールの狙いなど聞いた。
 ――内部統制ルール導入の意義は。
 「より健全な経営をするために、企業の経営者がよってたつ仕組みや前提が内部統制だ。公開企業であれば、事業特性などに応じた独自の内部統制を持っている。今回の実施基準でも、内部統制の画一的な規格などを打ち出した訳ではない」
 「社会的な責任が大きな公開会社が内部統制で最低限やるべきことを定めた。従来と違うのは、経営者が内部統制の有効性を投資家など外部にもみえる形で説明する責任を負い、監査を受ける点だ。それに伴い、残すべき資料が増えたり、監査人への対応が求められたりはする」
 ――米国では内部統制ルールが企業に過度な負担となっているとの批判もある。
 「米国でも内部統制の考え方は揺らいでいない。適用に問題があった。ルールを定めた米企業改革法四〇四条は、内部統制の評価方法など具体的な規定がなかった。会計事務所を監督する上場企業会計監視委員会(PCAOB)が内部統制の細かな監査基準を決めた。その結果、エンロン事件などで萎縮した会計士が内部統制の監査で過度に保守的な姿勢をとり、企業の負担が増えた」
 ――日本でも同じ弊害は起きないか。
 「日本では内部統制の枠組みと評価、監査の実施基準を統一してつくった。経営者による評価基準では、重要な拠点を選ぶ際の目安などを明確な数値基準で示したほか、業務プロセスで評価すべき勘定科目も明示した。すべての勘定科目について積み上げて評価した米国に比べ、大胆に簡略化した。また内部統制監査と財務諸表監査を同一の監査人が実施する。監査の一体化で相乗効果を生み、財務諸表の信頼性が高まるはずだ」

2006年11月27日