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内部統制ルール、米で緩和機運(日経新聞 2006/11/23)

内部統制

競争力回復へ官民が対策
 日本でようやく導入が決まった内部統制ルールが、本家の米国ではやり玉に挙がっている。正確な決算書を作成するための社内体制整備と外部監査を厳格に義務づけたため、「上場企業のコスト負担となっている」と市場参加者からの批判が強い。米証券取引委員会(SEC)と監査法人を監督する上場企業会計監視委員会(PCAOB)は来月十三日に会合し、内部統制ルールの緩和案を提示する予定だ。
 「四〇四条は米国の力をそいでいる」
 先月二十六日夜、ウォール街の中心にあるニューヨーク証券取引所。同証取の取締役会が開いた会合で、コロンビア大学経営大学院のグレン・ハバード学長がほえた。ハバード学長は米大統領経済諮問委員会の元委員長。株式公開(IPO)での世界シェアが低下しつつあることに触れ、「米資本市場が国際競争力低下にひんしている」と訴えた。
 四〇四条とは米国の内部統制ルール。エンロン破綻を契機に制定した米企業改革法の看板条項で二〇〇四年から適用された。業務の流れを文書で記録し、その内部統制の適切性を経営者に証明させ、監査法人に監査させる仕組みは日本のモデルとなった。エンロン、ワールドコムなど米国では数々の企業スキャンダルで経営者が「私は知らなかった」と無知を主張して抗弁したために、こうした言い逃れができない仕組みをつくった。
 だが、四〇四条は不正会計に至らなくても、内部統制ルールの不備自体が罰金や刑事罰を伴う。上場企業が過剰対応しているのが実態だ。
 「監査基準を重要な順に分類してほしい」
 「SECこそ内部統制ルールが必要では」
 内部統制ルール導入二年後の今年、SECが同ルールに対する意見をネット上で募集したところ、百通を超える意見書が経営者や市場参加者から届いた。大半が同ルールに対する抗議だ。
 特に評判が悪いのが、四〇四条を具体化するためにPCAOBが定めた膨大な監査基準で、その数は二百十六項目。A4で三百七ページにわたり、S&P主要五百社の監査手数料合計額は、対応への煩雑さからルール施行後の〇四年に四十億ドルと〇二年から六割増えた。
 米会計監査院が四月に発表した調査によると、最大の「被害者」は中小企業。時価総額七千五百万ドル以下だと監査手数料が売り上げに占める比率は〇三年には〇・六四%だったのに、〇四年には内部統制ルール導入企業では一・一四%とほぼ倍増した。
 米国市場のIPO時価総額は〇〇年こそ千億ドルとロンドン証券取引所や香港取引所などライバルの七―九倍に達していたが、今年はついに世界一の座から降りた。数字だけ見ると、中国など新興国企業を取り込むうえで米市場の競争力低下は歴然としている。
 先の中間選挙で勝利した民主党もウォール街の悲鳴に理解を示す。下院の金融サービス委員会委員長が固まったバーニー・フランク議員は経営者の巨額報酬批判で知られるが、「過剰な規制が存在する」と四〇四条には懐疑的だ。
 米財務省は来年初め、米国の競争力回復に向けた対策を検討する会合を開く。民間でもハバード学長、ドナルド・エバンズ元商務長官、有力弁護士のアイラ・ミルスタイン氏など有識者十六人が「資本市場の規制に関する委員会」を結成し、近く独自の内部統制ルール改正案を発表する。
 経営者が財務諸表の真正性について証明する宣誓ルールなど米企業改革法の基幹を問題視する声はウォール街にない。「会計の透明性、企業統治ルールの向上こそが、米株式相場上昇の原動力となった」(PCAOB初代委員長だったメリルリンチのウィリアム・マクドナー副会長)。だが、内部統制ルールに関しては、旗振り役だったSECとPCAOBは譲歩を迫られている。

2006年11月23日