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みすず、実質解体へ(日経新聞2007/02/21)

中央青山:一時監査人

監査業務、7月移管を発表
 大手監査法人のみすず監査法人(旧中央青山)は二十日、今年七月をメドに監査業務を新日本、トーマツ、あずさの三監査法人に移管すると正式発表した。監査先企業の不正会計事件が相次ぎ、信用力が低下、監査法人として業務を継続することを事実上、断念した。今三月決算企業などの監査業務は従来通り実施し監査先への影響を抑えるが、企業側は来期以降の監査法人の変更など対応を迫られる。
 都内で会見した片山英木理事長は「社員・職員の全部または一部を移籍させる協議に入ることで、三監査法人と基本合意した」と述べた。監査を含む全業務が対象。事実上の解体に踏み切るのは顧客からの信頼回復が難しく、人材が流出する懸念も高まってきたからだ。
 みすずはカネボウ問題で昨年夏に二カ月の業務停止処分を受け、監査先の上場企業数は約八百社から約六百社に減少。日興コーディアルグループの不正会計で再び行政処分を受ける可能性もある。所属会計士の離脱なども増え、法人運営が不安定になっていた。

みすず、実質解体
なれ合い監査に終止符、企業にも意識改革迫る。
 監査法人大手の一角であるみすず監査法人(旧中央青山)が、事実上の解体に追い込まれたことは、企業と監査法人とのなれ合い監査の時代が終わったことを象徴する。ただ、監査法人の責任を追及するだけでは会計不信は終わらず、不信の払拭(ふっしょく)には、上場企業も抜本的な意識改革が欠かせない。
大量引き抜き
 みすずが他の監査法人への業務移管を決めたのは、あずさ監査法人などが会計士の引き抜きに動いたためだ。「人が抜けてしまうと私どもは仕事ができません」。二十日の記者会見で片山英木理事長は唇をかんだ。
 米エンロンの粉飾決算に関与して二〇〇二年に解散に追い込まれた米大手会計事務所アーサー・アンダーセンを思い出す。みすずは過去にカネボウの大型粉飾決算を見逃し、日興コーディアルグループの不正会計にもお墨付きを与えていた。
 ただみすずは一般職員も含め、約二千五百人が働く大組織。経営が行き詰まったわけではないのに「信用を棄損してしまった」(片山理事長)という理由で組織がなくなるのは極めて珍しい。
 監査法人としての信用の再構築に時間を掛けるよりも、会計士の働く場をほかに求めた方が顧客企業にかかる迷惑が少ないという判断が背景にある。所属会計士に連帯して無限責任を負わせるという監査法人の特殊性もあるだろうが、「まずは組織防衛」と考えがちの日本が変わる兆しなのかもしれない。
 みすずは山一証券、ヤオハン、足利銀行などの監査も務めた経緯がある。問題はみすずが消え、企業会計への信頼感が回復するかどうかだが、日本の監査制度は市場インフラとして数々の課題を抱えている。
人数追いつかず
 第一に、四半期開示の導入や相次ぐ会計基準の変更で監査法人の仕事量は急速に増えているのに、人数が追いついていない。公認会計士数が米国の約三十三万人に比べて一万七千人強と少ないだけでなく、「多忙で責任が重い割に収入が少ない」として会計士のなり手が減っているのだ。
 第二に、不正会計の排除に向けた上場企業の体制が不備だ。米国のように内部監査室に多数のスタッフをそろえ、株主の視点で会計書類を点検し、経営者に直言できるような企業はごく一部。経営陣直結の経理部門や財務部門が作った書類を少人数の会計士が点検するだけでは限界がある。
 「監査法人に責任はないのか」と問われ始めたのは、山一証券が自主廃業を決めた一九九七年。それから九年余が経過し、上場企業の発行済み株式の二六・七%を外国人投資家が保有しているのに、会計・監査への不信はなおくすぶる。
 国際的に通用する透明性の高い制度を築くには、監査法人の責任を突くだけでなく、株主の視点に立った企業統治制度の導入、決算期の分散による監査業務の平準化、監査報酬の引き上げなどに産業界全体が真剣に取り組む必要がある。
顧客企業どうなる(Q&A)
監査人変更、総会で承認/担当者分散で混乱も
 みすずの解体で顧客企業にどのような影響が出るのか。整理した。
 監査業務移管の流れは。
 会計士はチームで動いており、チーム単位での移籍になるとみられる。みすずが他の三大監査法人と協議し、企業と会計士の意見をふまえ、詳細を詰める。移籍は上場企業の大半を占める今三月期決算の監査業務が終わった後になる。
 問題は来期以降の監査だ。企業が会計監査人を変更する場合、株主総会の承認が必要。三月決算会社の場合は総会のある六月に間に合わせるため、遅くとも五月中には、来期以降の方針を決めなければならない。
 どの法人を選ぶのかについて企業側の希望は通るのか。
 原則は企業が会計監査人を選ぶ。ただ、現在大手の監査法人では内部統制監査の導入準備などで作業量が増えており、引き受ける人的な余裕がない。中央青山監査法人(現在のみすず)が業務停止処分を受けた際も、同じ理由で「一時会計監査人」を選任できない企業が続出した。
 実際の対応としては現在監査を担当している監査チームの異動先の監査法人と、来期以降の監査業務を契約するケースが多いのではないか。
 実際の移管の段階になると、どんな混乱が考えられるか。
 チームがばらばらになるケースも考えられ、その場合の企業の対応は難しそうだ。米国の大手会計事務所のアーサー・アンダーセンがエンロン事件を契機に実質的に廃業に追い込まれた際は、顧客、会計士、バックオフィスの大半をある規模でまとめて別の大手法人であるKPMGが引き受ける形をとった。
 海外部門の監査も問題になるかもしれない。顧客企業には海外の監査を、みすずと提携関係の米プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に任せているところが多いが、移籍により例えば、国内は新日本監査法人、海外はPwC(新日本の提携法人は米アーンスト・アンド・ヤング)といったねじれが起きる。

監査移管、戸惑う企業、「代役」選定検討の動き。
 みすず監査法人が他の大手三監査法人に監査業務を移管する方針を決めたのを受け、新日本製鉄やユニーなど一部の企業では代わりの監査法人の選定を検討する動きが広がっている。ただ「現時点では判断材料がなく、対応は未定」(日本電産)と戸惑う声も聞かれる。多くの企業はみすず側からの具体的な回答を待って今後の対応策を決める考えだ。
 あずさ監査法人との共同監査体制を敷く新日本製鉄は「あずさに監査業務を集約する方向で検討する」(同社幹部)としており、近くあずさに対し単独で監査を受託できるよう体制整備を要請するようだ。個人事務所との共同監査である大手スーパーのユニーも、二〇〇七年二月期決算の監査終了に伴い、あずさへの変更を検討。グループ各社もあずさに一本化する見通しだ。
 王子製紙は「効率性の観点から今の監査チームに引き続き依頼したい。今のチームが移った場合はその法人が有力候補」(四宮利勝執行役員)と話している。三菱ケミカルホールディングスは「共同監査人の新日本が当社の全体像をつかんでおり、業務への影響は少ない」と冷静に受け止めている。
 一方、ミサワホームホールディングスや中部電力など多くの企業は「現在コメントできることは無い」(ミサワHDの赤松哲男執行役員)と、対応を決めかねている。セブン&アイ・ホールディングスも「あずさと共同監査にしたこの半年間でどこまで業務を引き継げているかなど、慎重に見極めたい」という。
 みすずが単独監査をしている富士急行は「みすずから今期の監査は約束するとの話があったが、今後、他の監査法人にどこまで頼めるのかなど不安は募る」。「内部統制の整備を進めなければならない時期だけに影響は大きい」(関西の電機メーカー)との声もある。

理事長会見、みすず「継続性最優先」、人材流出で決断。
 みすず監査法人は二十日、監査業務の移管について会見を開いた。片山英木理事長は「資本市場を混乱させないためにも、監査業務の継続を最優先した」と決断理由を語った。主な一問一答は以下の通り。
――決断に至る背景は。
 「一月初旬から様々な案を検討してきた。監査業務を継続することを最優先に考えると、今のみすず監査法人では業務遂行の先行きが不透明だ。人材が流出し、十分な監査ができない可能性がある。今後、万が一の事があったら顧客に大きな迷惑をかけることになる。影響を最小限にとどめる方法を選んだ」
――顧客や職員らには説明したのか。
 「まだ全部とはいえないが、顧客には説明に入っている。職員らには各部門長が説明する。今まで担当していた監査チームが移籍した先に、顧客も移れば監査の継続性は保たれる。ただ、顧客と職員らがそれぞれ自由意思で移籍先の法人を判断することになる」
――日興コーディアルグループの不正会計問題の発覚以降、経営に悪影響はあったのか。
 「昨年十二月、今年一月の顧客企業の株主総会で、会計監査人を再任されなかったケースはごくわずかだ。ただ、失った信頼を取り戻す時間を考えると、今回の決断はやむを得ない」
――法人は解散することになるのか。
 「法人の解散については社員全員の同意が必要なため、現時点では決めていない」

2007年02月21日