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みすず、監査業務を移管へ、アンダーセンのてつ踏む(日経産業新聞2007/02/21)

中央青山:一時監査人

対顧客企業、弱い独立性
 みすず監査法人(旧中央青山)は二十日、新日本など他社に監査業務を移管する方針を発表した。カネボウや日興コーディアルグループなど監査先企業で不祥事が相次ぎ、大手監査法人が実質的に解体する初のケースとなる。「日本版エンロン事件」の再発を防ぐためには、監査法人だけでなく企業側の意識改革も不可欠だ。
投資家を向かず
 米国では二〇〇二年に巨大会計事務所の破綻が起きている。エネルギー大手エンロンの不正会計に加担したアーサー・アンダーセンだ。八万人以上の社員を抱え、外国政府や多国籍企業など十万の顧客を持っていただけに、同社の破綻は大きな衝撃を与えた。
 そこから得られた教訓は何だったのか。元社員は『名門アーサー・アンダーセン消滅の軌跡』の中で「会計監査で顧客企業ではなく投資家を第一に考える独立性があれば事件は防げた」と記す。
 日比谷パーク法律事務所の久保利英明弁護士は「日本では投資家を第一に考えて行動するところまで経営者も会計士もまだ変わっていない」と見る。経営者は会計士に対し「カネを払っているのに余計なことを言うな」という姿勢であり、会計士にとって経営者は「怒らせてはいけない大事な顧客」であるという。
 大株主の米シティグループは七十億円以上であるのに、日興コーディアルは一億三千万円強――。両社が直近の決算期に監査法人に払った監査報酬額には、経営規模の違いを考慮しても途方もない差がある。
 同じことはほかの日本企業にも言える。例えば米ゼネラル・エレクトリック(GE)の百億円以上に対して、三菱重工業は約一億五千万円だ。これだけの内外格差が生じているのは、日本企業が監査にかける時間が欧米企業と比べて圧倒的に少ないためだ。
 時間をかけるほど監査報酬は膨らむ。米国ではエンロンやワールドコム事件をきっかけに企業改革法が制定され、内部統制など監査にかける時間が大幅に増えている。投資家は歓迎しているが、中小企業の多くは悲鳴を上げている状況だ。
経費か保険料か
 「経営者対会計士」で見た場合、日本では伝統的に前者が強い立場にある。事実、最近まで監査報酬体系は自由化されておらず、実質的に日本経団連の了解を得て決められていた。会計士が独立性を確保できないのも無理はなかった。
 大手監査法人のベテラン会計士は「会計士が不正に加担するのは論外だが、経営者が監査報酬を単なる経費と見なしているのも問題」と指摘する。「監査報酬はリスクを回避するための保険料」と位置づける発想が乏しいのだ。
 エンロンとワールドコム事件では、投資家がクラスアクション(集団代表訴訟)を起こした。損害賠償額はエンロンで八千億円以上、ワールドコムで六千億円以上だ。これほどの偶発債務の発生を防げるのであれば、経営者が保険料として多額の監査報酬を払う意識も出てくる。
 日本では長らく、投資家が「不正会計でだまされて損害を受けた」という訴訟を起こしても勝てる見込みはほとんどなかった。だが、数年前に証券取引法が改正され、不正会計が問題になったライブドア事件では投資家が集団訴訟を起こした。
 「監査報酬は経費」という発想が残る限り、投資家保護の立場から監査を充実させる意識は生まれにくい。それを変えるきっかけは、投資家による損害賠償訴訟かもしれない。

2007年02月21日