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内部統制まずは我が身(日経産業新聞2007/02/22)

内部統制

特需狙う情報各社、絶えぬ契約トラブル
見えぬ商品■社員暴走
独特の商慣行、禊ぎ急務に
 監査先企業の相次ぐ不正会計を受け、みすず監査法人が七月に実質解体する。内部統制ルールが二〇〇八年度から始まるなど、会計の透明化が企業の存続を左右する時代に入る。対策には情報システムによる業務管理が不可欠で、情報業界は特需に期待する。だが同業界では、今も不透明な取引による契約トラブルが後を絶たない。まず自らの禊(みそ)ぎを済ませないと、社会の信任を大きく損なう恐れがある。
 「原告の請求を棄却する」。東京地裁で十五日、ヘラクレス上場でシステム開発のイーシステムが、システム開発大手のTIS相手に起こした損害賠償請求訴訟の判決があった。
 〇四年末、イーシステム社員が自社のソフトを代理販売しないかとTIS社員に持ちかけ、約十八億円でソフトの売買契約を結んだ。
 だがTISはこの契約について「内規に違反しており、無効」として一方的に契約を解除。イーシステムは不服として、〇五年八月に四億六千四百八十万円の損害賠償を求めていた。これはソフトの仕入れ価格とTISへの販売額の差額分に相当するという。
 地裁は「高額な契約を結ぶ権限のない社員が無断でしたこと」というTISの主張を認めた。イーシステムは「控訴を含めて対応を検討中」という。
 IT(情報技術)企業間の契約トラブルは大阪でも司法の場に持ち出されている。ヘラクレス上場のソフト開発会社、デジタルデザイン(DD社)は二日、日本IBMやネットワーク機器販売のネットマークスなどに対して損害賠償請求訴訟を大阪地裁に起こした。
 このケースもやはり、社員の勝手な行動が問題になっている。発端は昨年三月。三社はネットマークスの情報機器をDD社経由で日本IBMに販売する契約を結び、DD社はネットマークスに仕入れ代金約十二億円を支払った。
 その後、受領した納品受領書などをもとに、DD社が日本IBMに請求したところ、法的根拠のない取引だと支払いを拒否。日本IBMの担当者(現在は退職)が社内で定める契約形式に基づかずに契約したことが理由だった。
 関係各社は機器の受け渡しが実際にあったかどうかも、まだ確認できていない。DD社は支払い済み代金を、現物を確認できたら日本IBMが、確認できなかったらネットマークスが返還するよう請求している。
「スルー取引」も
 一連のトラブルの背景には、情報業界特有の構造がある。一つは家電製品などと違い、ソフトという機能や付加価値が目に見えにくい商品を扱っていること。在庫が発生するわけではないし、ソフトが対価に見合うものなのかどうかを受け取る側がはっきり確認することも難しい。
 こうした特性が「スルー取引」と呼ぶ取引形態を生む土壌になっている。実際にソフトを受け渡しする情報企業二社の中間に、取引に必要のない情報企業を挟ませ、伝票のみ仲介させるやり方で、営業ノルマを達成しようと、中間の企業が売り上げをかさ上げするために利用している。
 スルー取引自体は違法ではない。だが〇四年に発覚したシステム開発会社メディア・リンクスの粉飾決算は、スルー取引と見せかけ、最終顧客がいないのにソフト転売を繰り返したことが発端とされている。
一括計上に問題
 情報システム構築時に結ぶ不透明な契約も問題だ。システム構築にはコンピューター機器やソフトの代金、システム技術者の人件費など様々な費用がかかる。
 だが多くの場合、中身を明確にせず「システム構築費用」として一括計上される。構築期間が数年かかる場合、毎年どれだけ進ちょくしたかがわからず、「フロッピーディスク一枚納めただけで、その年の『システム構築費用』として請求できた場合もあった」(システム大手幹部)。
 目に見えない商品、不透明な契約――。独特の商慣行ゆえに、社内の監査機能も不十分。それが現場社員の“暴走”と契約トラブルを生む大きな要因になっている。
 現状打開に向けた動きもある。日本公認会計士協会や財団法人財務会計基準機構などが、ソフト取引の収益計上方法など会計監査の厳格化を求めるガイドラインを作成。情報各社もシステム構築内容を詳細に管理する動きは出始めている。
詳細判断は困難
 ただ経営トップからは「監査体制を強化しても、取引する機器やソフトの詳細すべてを経営レベルで判断するのは困難。最後は現場社員のモラルに委ねるしかない」との声も聞こえてくる。
 調査会社のIDCジャパン(東京・千代田)によると、国内で内部統制に関連したIT投資規模は今年、約二千五百億円と〇六年比二・五倍を予測。今後数年間は同水準の投資規模が続く見通しだ。国内IT市場全体が年率二%成長と大きな伸びが見込めない中、情報各社は内部統制を大きな商機として関連サービスの拡充を急いでいる。
 内部統制は、文書で明記するなど業務プロセスの「見える化」が対策の根幹だ。それだけに特需を取り込もうと意気込む情報各社にとっては、契約の透明化など自分たちの業界を「見える化」することが急務だ。

情報業界の取引を巡る主な出来事  
04年10月  メディア・リンクス元社長がインサイダー取引容疑で逮捕(架空取引が表面化)
   11月  CTC、ライブドアなどがメディア・リンクスとの取引が明らかに
05年3月   日本公認会計士協会、報告書「情報サービス産業における監査上の諸問題について」を公表
   7月   イーシステム、05年12月期業績を下方修正(TISの不当行為が原因と発表)
 7―8月   TISとイーシステム、自社の主張を求めて互いに提訴(東京地裁)
06年3月   (財)財務会計基準機構、報告書「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取り扱い」を公表
    8月  デジタルデザイン、日本IBMやネットマークスとの取引で債権回収不能の恐れがあると発表
   10月  デジタルデザイン、07年1月期業績を下方修正
07年1月   架空取引が発覚したアイ・エックス・アイが民事再生法申請。東京リースやデジタルデザインなどとの取引も明らかに
   2月   デジタルデザイン、日本IBMやネットマークスなどに相手に提訴(大阪地裁)
        東京地裁、イーシステムの訴え退ける(TIS勝訴)

2007年02月22日