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みすず解体の衝撃(上)組織的監査へ転換迫る(日経新聞2007/04/12)

公認会計士の職業倫理

「縦割りの弊害」解消が課題に
 日興コーディアルグループの不正会計問題をきっかけに、上場企業約五百社の監査を受け持つみすず監査法人が実質解体の決断に追い込まれた。大手監査法人の崩壊は業界に再編のうねりを引き起こす一方、顧客企業は新たな監査法人探しを迫られている。みすず解体を巡る監査業界や上場企業の動きを追う。
 「合併しませんか」。今年一月下旬。みすずの片山英木理事長はひそかに、あらた監査法人の高浦英夫代表と会い、こうもちかけた。
 あらたは二〇〇六年七月、カネボウ事件に絡む行政処分をきっかけに旧中央青山(現みすず)から独立したばかり。そのみすずと合併すれば独立した意義が失われる。高浦代表は合併話を断った。
 みすずは追い込まれていた。監査先企業で不正会計や疑惑が次々浮上し、信用力が大きく低下。日興コーデ問題で再び行政処分を受ければ、顧客離れが加速しかねない。法人内でも、名古屋事務所があずさ監査法人へ移籍する動きが発覚。組織崩壊を食い止める起死回生の策が合併だった。
 片山理事長は二月初め、幹部会で「このままの形で組織は維持できない」と他法人に救済を求める考えを漏らす。この発言が業界に伝わり、一気に会計士や顧客企業の引き抜きが広がった。
 二月二十日。万策尽きたみすずは七月をメドに監査業務を全面移管すると発表した。
 監査業界にとって、みすず解体の教訓は何か。その一つは、大手監査法人がいずれも中小事務所の統合で規模を拡大してきた経緯から、運営や監査業務で統一性を欠いており、それが致命傷になったことだろう。
 監査チームは有力会計士を中心に実質的な縦割りで、独立意識が強い。本部の目が届きにくく、監査の品質管理が必ずしも徹底されていない。これが企業とのなれ合い監査の温床になっているとの批判がある。
 特に旧中央青山は「古い体質を一掃するのが遅れた」(日本公認会計士協会幹部)ために、カネボウ事件のような監査不祥事が相次いだとの指摘は多い。だが他の監査法人も万全とはいえない。
 金融庁の公認会計士・監査審査会が昨年六月公表した「四大監査法人の監査の品質管理について」は、監査法人のずさんな管理体制を浮き彫りにした。
 地方事務所は、管理体制が地方任せになっている、監査チームの判断や処理の適切性を確認する審査体制に不十分な点がある――など具体的な事例を挙げて「組織的な業務運営が不十分」と厳しく指摘。この検査を受け、金融庁が今国会に提出した公認会計士法改正案では、組織的監査の徹底が盛り込まれた。
 実質解体の発表後も、みすずの迷走は続く。みすずは会計士の希望を聞いて移籍先を紹介する方式で、大手三法人との交渉を有利に運ぼうとした。まず監査法人トーマツが好条件を提示し、みすず執行部の気持ちはトーマツに大きく傾いた。
 ところが、執行部がトーマツに人員の大半を移管させようと検討している事実がわかると、古参の会計士が「社風が違いすぎる」と一斉に反発。ベテラン会計士に従う格好で若手も雪崩を打って新日本を希望し、移籍先の大勢がほぼ固まる結果となった。
 監査法人を選ぶのは企業だが、担当会計士の移籍に伴って顧客企業の多くが同じ監査法人へ移るとみられている。監査法人は変わっても、担当会計士が同じでは、その企業の問題点が表に出ない可能性もある。
 担当会計士の交代制など制度改革は始まっているが、縦割りの弊害は消えていない。みすず解体を教訓に、組織的な監査体制を構築できるか。監査業界にとって重い課題だ。

みすず(旧中央青山)監査法人を巡る問題事例  
企業名 内 容
山一証券  1997年に経営破綻。2003年に山一証券の破産管財人と監査報酬返還で和解
ヤオハンジャパン  1997年に経営破綻。2000年6月、旧大蔵省が担当会計士を業務停止3カ月、法人を戒告処分
足利銀行  2003年に一時国有化。決算で債務超過状態を適正と判断。05年に金融庁が戒告処分
アソシエント・テクノロジー  2004年に粉飾決算を公表。05年1月に上場廃止
カネボウ  04年に産業再生機構が支援。06年8月東京地裁で担当会計士に有罪判決。金融庁が同5月、法人に一部業務停止命令処分
日興コーディアルグループ  05年3月期決算で他社株転換社債を使った利益水増しが表面化
三洋電機  04年3月期決算で子会社株式評価を巡る不適切な会計処理の疑いが07年2月に表面化

2007年04月12日