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みすず解体の衝撃(中)困惑する上場企業(日経新聞+2007/04/13)

公認会計士の職業倫理

監査法人、新規引き受けに慎重
 みすず監査法人が実質的な解体を決めた余波で、新日本製鉄の監査を巡るひとつの騒動が起きている。
 新日鉄はみすずの前身である旧中央監査法人の顧客企業。総勢百人を超える会計士と職員がかかわる。みすずがカネボウ事件で業務停止命令を受けたことを契機に、新日鉄は二〇〇六年度から、あずさ監査法人との共同監査に移行した。
 監査法人をあずさに一本化したい新日鉄は当初、みすずの監査チームに対し、あずさに合流するよう水面下で要請。だが、主力メンバーの多くは拒絶し、トーマツへの移籍を希望している。
 あずさは一年間しか新日鉄の監査に携わっておらず「あれだけ大きな企業の監査を今のあずさだけで引き受けるのは難しい」(みすず幹部)。トーマツとの共同監査を検討する案もあるが、新日鉄内部では「企業と会計士の癒着が疑われる」と否定的な意見が多く、結論は出ていない。
 中堅以下の企業ではより深刻な問題が表面化している。みすず問題の余波で、監査の引き受け手が見つからない「監査難民企業」が生まれかねないことだ。
 「このままでは殺到する企業を引き受けきれない懸念がある」。新日本監査法人の幹部は四月上旬、金融庁を訪れて現状を訴えた。みすずの会計士や職員約千人は新日本監査法人へ、あずさとトーマツには計数百人規模が移籍する見通しだ。
 みすずの会計士の中には、他業界へ転職する人もいるため、みすずの顧客企業を大手監査法人がすべて引き受けるのは困難。こうした企業向けに、日本公認会計士協会は監査法人を紹介する相談窓口を設けた。すでに三十社以上から相談が寄せられているという。
 カネボウやライブドアなどの会計不祥事が相次ぎ、監査法人に対する批判が強まる中、各監査法人は監査を厳格にする姿勢を強めている。それが監査の新規引き受けにも影響している。
 三月二日付で会計監査人をみすずから新日本に変更したグッドウィル・グループ。同社は三月二十九日、二〇〇七年六月期の連結最終損益が三百億円の赤字になると発表した。子会社の介護大手コムスンの減損損失などを計上するためだ。
 折口雅博会長は「監査法人から業績回復が見込めないと厳しく判断された」と説明する。会計関係者の間では「減損損失の計上が監査引き受けの条件だったのでは」とささやかれている。
 大手監査法人に引き受けを断られた中堅企業の幹部は最近、会計士協の藤沼亜起会長のもとに駆け込んだ。「監査法人を三つ紹介してほしい。見積もりのうえ、一番監査報酬が安いところを選びたい」
 藤沼会長は「大手に断られた意味をよく考えてください」とたしなめたという。監査報酬を単なるコストとしかとらえない、企業側の監査に対する意識の低さを象徴するようなやりとりだ。
 各監査法人は、監査契約を結ぶ前に、企業の財務状況を詳細にチェックする必要があり、リスクの高い監査の引き受けに及び腰だ。赤字続きの企業や粉飾のうわさが飛び交う企業などは拒まれる可能性が高く、みすずの業務移管に伴って「一時的に、監査法人が見つからない企業が数十社規模で発生するのではないか」との観測もある。
 監査法人が入念な監査をすることは大切だが、過度に厳しくすると、企業活動を萎縮させる懸念もある。成長性のあるベンチャー企業などの監査を敬遠するムードが強まれば、新興市場は成立しなくなる。健全な上場企業や上場予備軍が困らないように、業界をあげて知恵を絞ることが急務になっている。

2007年04月13日