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みすず解体の衝撃(下)深刻さ増す人材流出(2007/04/14)

公認会計士の職業倫理

会計士の独立性向上、急務に
 「監査業務を使命ととらえ、これにとどまられることを強く願っております」。みすず監査法人が実質解体の方針を発表した約二週間後の三月七日。日本公認会計士協会と大手監査法人が異例の共同声明を出した。「みすずの会計士百人余りが監査業界から流出する」との観測が広がったことが背景にある。
 内部統制監査や四半期決算などのスタートを控え、監査法人は業務が急増する一方で、慢性的な人手不足が続いている。コンサルティングなど他の分野へ会計士が流出しているためだ。みすずの会計士も東京事務所の一割程度は監査業務から離れ、他の仕事に就くことを考えているという。
 他業種が働き盛りの中堅会計士を引き抜こうとする動きが激しく、ある大手監査法人では二〇〇六年度に全体の五%超の人員が退職した。公認会計士登録者は〇六年度に前年度比七%増えたが、大手監査法人の会計士の合計人数は減少しており、監査業務からの人材流出は止まらない。
 なぜ監査業務をしない会計士が増えるのか。会計士協の藤沼亜起会長は「訴訟のリスクを抱えるうえ、業務の増大で現場は多忙を極めている」と語る。カネボウの粉飾決算事件では「会計監査の社会的信用を失墜させた」と監査人に有罪判決が下り、ライブドア事件では監査人に一審で実刑判決が出た。会計士の実刑判決は初めてだ。
 高リスク、多忙だけが敬遠される理由ではない。カネボウ事件の裁判では、監査契約を打ち切られることを恐れた会計士が、企業のいいなりになっていた実態が浮かび上がり、会計士への幻滅感が社会的に広がったこともある。
 今国会に提出されている公認会計士法改正案では、粉飾決算に関与した監査法人に課徴金を科すなど罰則強化を打ち出した。しかし、監査法人への罰則を強めるだけでは、企業の粉飾決算はなくならない。取り組むべき課題は二つある。
 第一は、会計士が株主や投資家の側に立って企業に向き合えるように、法的な独立性を高めることだ。監査を受ける側の経営者が監査人の選任や報酬の決定権を握るという「ねじれ現象」が日本にはある。これが会計士が企業に強く出られず、粉飾決算を容認する土壌になっている。
 世界的には、独立した監査委員会が監査人の選任と報酬の決定権を持つことが多く、会計士の独立性を担保している。日本でも監査役に監査人の選任決定権を与える案が持ち上がったが、今公認会計士法改正案では盛り込まれなかった。
 第二は、監査を受ける企業側のガバナンス(統治)向上だ。決算を作成する第一義的な責任は企業経営者にある。企業のグローバル化や金融取引の複雑化などで、経営者が意図的に行う粉飾決算を見抜くのは難しくなっている。企業内部で不正を摘発する機能が働くことが欠かせない。
 明治大学大学院の山浦久司教授は「不正を見付けるのは監査法人だけでは対応できず、監査役などによるサポートが必要。今は制度的なサポートが少なすぎる状況だ」と指摘する。
 金融庁は会計士試験制度の改革などを進め、一八年に会計士を現在の三倍超に当たる五万人にまで増やす目標を掲げたが、受験者数は伸び悩んでいる。会計の番人である会計士が誇りを持って能力を発揮できる環境を整備しなければ、人材は集まらない。
 青山学院大学大学院の八田進二教授は「会計監査制度の脆弱(ぜいじゃく)性は資本市場の弱体化につながる」と警鐘を鳴らす。監査の品質が低ければ、資本市場や上場する企業の品質にも疑いの目が向けられかねない。相次ぐ粉飾事件で揺らいだ信頼を取り戻せるか。日本の監査制度は正念場を迎えている。
公認会計士法改正案の骨子
【監査法人に対する規制強化】
・課徴金制度の導入
・業務改善命令、経営陣への解職命令の導入
【監査法人の運営】
・無限連帯責任制度から有限責任制度へ
・会計士以外も社員資格の取得が可能に
【導入を見送り】
・刑事罰の導入
・監査法人の交代制

2007年04月14日