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WIDEINTERVIEW日本公認会計士協会会長藤沼亜起氏(日経金融新聞2007/04/16)

公認会計士の職業倫理

「ゆるふん監査」一掃
登録制導入、問題なら公表
受け手ない「難民企業」防ぐ
 カネボウの粉飾決算事件や日興コーディアルグループなどの不正会計問題が相次ぎ、会計監査の信頼性回復は緊急の課題だ。日本公認会計士協会の藤沼亜起会長は日経金融新聞のインタビューで、監査法人に対する自主規制の強化によって「ゆるふん監査」を一掃するとの決意を示した。また、みすず監査法人の実質解体に絡み、監査先の企業がほかの監査法人へ順調に移れるように業界として努力すると強調した。

 ――七月で三年間の任期を終えますが、会計不祥事は後を絶ちません。
 「カネボウ、ライブドア事件と大型の会計不祥事が相次いだ。昨年夏には旧中央青山(現みすず)に対する一部業務停止処分が下り、今年に入って日興の問題やみすずの監査業務移管発表など世間を騒がせることが多かった。基本スタンスとして会計不祥事はまず、我々会計士自身が解決しなければならない」
 「上場企業を担当する監査事務所には、今年度から登録制を導入する。問題がある事務所はウェブサイトで公表する。各事務所には監査業務の改善を徹底するよう求めており、自主規制で思い切ったことはやってきたつもりだ」
組織改革も推進
 ――最近も中小の監査法人が行政処分を受けるなど、内部の審査体制が機能していない事務所もあります。
 「すべてが完ぺきな事務所ばかりでないことは事実だ。協会は事務所に対して『品質管理レビュー』という調査を実施しており、問題把握は進んでいる。手ぬるい『ゆるふん監査』をする事務所は減っていくだろう」
 「協会は世間から会計士の保護団体と思われている部分もあったため、組織やガバナンス(統治)改革にも取り組んでいる。協会の意思決定機関や会員を処罰する審査会に外部の有識者を入れて透明性を高めている。あとはいかに実行していくかだ。会計士が社会に信頼されるよう実績を積み上げていきたい」
 ――今国会で審議中の公認会計士法改正案では監査人に対する規制が一層強化されました。
 「課徴金制度の導入など処分の形態が増えたり、理事長などに対する解職命令などが導入され、確かに厳しくなった。不祥事が相次いだことを別にしても資本市場に参加する個人が増えており、財務情報の透明性や正確性を高めるために規制が強化されるのは仕方がない。米国ではエンロン事件が起こり、企業改革法(SOX法)が施行された。会計監査に対する規制強化という国際的な流れも背景にある」
 「改正案には業界の悲願だった有限責任制導入が盛り込まれた。供託金が必要など条件付きだが大きな前進だ。無限連帯責任を改めたといっても、監査報告書にサインした会計士と審査に直接かかわった会計士は無限責任のまま。責任の重さは従来と変わらない」
担い手呼びかけ
 ――監査法人は新規引き受けに慎重で、上場企業の中に監査の引き受け手のいない「監査難民企業」が出かねません。
 「監査人の数が十分に足りていないのは事実だ。みすず解体を目の当たりにして監査法人もリスク管理を厳しくしている。リスクが高い企業に対しては厳格に監査せざるを得ないが、協会としては監査難民企業の発生はできるだけ防ぎたい。中小の事務所にも声をかけて監査の担い手を積極的に募集している」
 「大手監査法人はデパートのように何から何まで手掛けているが、例えば非上場企業や学校法人などの監査を中小にシフトさせることも必要だ。大手法人は海外の大手会計事務所と提携関係があり、国際的な企業に監査先を絞るべきだ」
 「監査の引き受けは厳格にするよう指導している。ガバナンスが機能していない上場企業があることも事実だろう。こうした企業に対しリスクをとってまで監査人が引き受けるべきなのか」

企業もガバナンス磨け
歯止めに限界も
 ――監査人の不在が引き金となって上場廃止になる企業が出てくる可能性があります。
 「それは監査人の問題でなく、リスクが高いガバナンスを放置している企業側の問題だ。我々は常に監査リスクを評価しており、これまでも監査を引き受けられない企業が出たことはある」
 「証券取引所が定める上場廃止規定も業績だけではなく、さまざま角度からみた規定を整備することが必要ではないか。上場審査をきっちりと行うことも必要で、包括的な対策をとるべきだ」
 ――会計士の責任を追及することで不正会計問題はなくなるのでしょううか。
 「責任を追及されるのは、会計士に対する高い期待の裏返しだと受けとめている。だが、不二家の品質管理問題で会計士はなぜチェックしなかったのかと問われることがあるように、会計士の本来の業務と社会の期待との間には差がある。本来、資本市場はステータスのある企業が集まる場所だ。企業が出してくる情報をある程度信用して監査をしており、最近の新興企業の事例のように、経営者が主導して巧みに不正会計をすれば、監査人が不正を食い止めるのは限界がある」
 「企業には監査役が存在し、経営者に対するお目付け役として内部の視点で経営をチェックする役割がある。だが、問題が起きても非難を受けた例はほとんどない。駅伝に例えれば、最終アンカーである監査人が遅れてテープを切ったら、監査人だけが非難されるようなものでおかしい。我々自身が改善すべき点はもちろん改善するが、企業側のガバナンス向上も不可欠だ。企業の不正を防止するために、先送りされている法整備を早急に進めることが必要だ」
会計基準議論を
 ――みすずの解体で監査業務の寡占化が一層進むのではありませんか。
 「監査事務所の寡占化は世界的な問題。日本では特に大手と中小の差が激しい。大手は売上高が五百億円程度だが、中規模事務所は数十億円にとどまる。業務拡大や合併などで百億円規模の事務所が増えてほしい。公認会計士法の改正で導入される有限責任制度は、有限責任制への移行の条件として一定の規模が必要。中規模同士の合併は今後増えるだろう」
 ――国際会計基準の普及が進み、韓国も導入を決めました。自国の会計基準を持つ日本の孤立感が強まっています。
 「資本市場がグローバル化する中で、収益を計る物差しは同一であったほうがいい。同じ取引なら同じ会計処理にすべきだ。日本も戦略的に会計基準をどうするのかを議論していかなければならない。国内基準の作成を担う企業会計基準委員会は基準の共通化に向けて努力している。経済界のトップも会計基準の共通化について、積極的に議論してもらいたい」

 ふじぬま・つぐおき 1968年(昭43年)中大商卒、69年堀江・森田共同監査事務所入所。93年太田昭和(現新日本)監査法人代表社員。00年国際会計士連盟会長。04年から現職。東京都出身。62歳。趣味は丘を越えるウオーキング。

2007年04月16日