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会社法も改正、はや待望論(日経新聞2007/04/16)

公認会計士の職業倫理

会計士法改正案、審議入り前に
 会計士法改正案が近く国会審議に入る。カネボウやライブドアなど、相次ぐ会計不祥事で揺らいだ企業の財務報告と監査への信頼回復に向け、監査法人への規制などを強化する狙い。だが、会計士側や学識者の間では、経営側に対する監査人の独立性強化のため、パートナー役である監査役会の権限強化を求める声も根強く、会社法見直しによる次の一手への待望論もくすぶる。
会計士業界「監査の独立補強を」
 「企業監査の現場で日夜業務に励む皆様へ」――。三月上旬、日本公認会計士協会と五大監査法人のトップが異例の共同声明を出した。会計不祥事で監査人への風当たりが強まり、みすず監査法人も解体が決まった。コンサルタントなどへ人材流出も目立つなか、「緊急事態だからこそ現場に踏みとどまってほしい」(会計士協会の藤沼亜起会長)と呼びかけた形だ。
 過去の法改正や訴訟リスクの高まりを受け、現場の作業負荷は激増。だが、報酬は伸び悩み「弁護士など他の専門職より評価が低い」との思いがある。今回の改正案も規制強化の色彩が強く、追い打ちをかける。
 改正案で変わる主な点は二つ。一つは監査法人の管理体制や情報開示を強化、組織的な監査を促すこと。もう一つは課徴金制度など責任体系の整備だ。
「提案権」のねじれ
 半面、「監査人の独立性向上という面では課題が残った」(改善案の報告書をまとめた金融審議会・公認会計士制度部会の関哲夫部会長)。企業統治が弱ければ監査人を萎縮させるだけ。監査される側の経営者が監査人の選解任の提案や報酬決定権を握る「インセンティブのねじれ」は解消していないからだ。
 会計士や学識者の間では、昨年五月施行の会社法の改正論がくすぶる。
 会社法は監査報酬などを巡り、監査役に新たに取締役の提案への「同意権」を与えたが、提案権と同意権を入れ替え監査役権限を強化すべきだとの声が少なくない。監査人が監査役の付託にこたえる形となり、共同戦線も張りやすくなるからだ。
 共闘の重要さは、日興コーディアルグループの不正会計問題でもあぶり出された。
 特別調査委員会の報告書によると、問題の二〇〇四年当時から、監査委員会は会計処理を問題視し経営陣に再考を求めたり、複数の監査法人に二次意見を打診。だが、経営陣を止められず「(中央青山)監査法人が会計処理の適正性を確認する意見書を書いてきた以上、もはや打つ手はないという意識になったものと考えられる」という。
 「監査人が経営陣の顔色を見ずに、監査委員会と連携すれば、不正を防げた」(大手製造業監査役)との指摘は重い。
法務省に球投げる
 金融審委員からは報酬決定手続きを巡り、「影響の大きい上場企業に対象を絞り、金融商品取引法改正で監査役の権限を広げられないか」との声も出たが、「監査役の役割を見直すなら会社の機関設計を定める会社法改正が本筋」との声が勝った。結局、報告書には「会社法に関し、関係当局で早急かつ真剣な検討がさらに進められることを期待したい」と記載。「会社法を所管する法務省に、最大限の表現で球を投げた」(関氏)
 法務省では「監査役は契約など経営事象にかかわらないから独立性を保てる」と慎重論が根強い。ただ、実際に同意権が適用される今年の株主総会シーズン後に「同意権導入による変化や具体的な不都合の有無を幅広く聞き取り、検証する」(江原健志・民事局参事官)考え。
 監査人が本気で戦うには、相方の監査役の権限強化は不可欠だろう。金融審委員で会社法制定時に法務省の法制審議会委員も務めた弥永真生・筑波大教授は「会社法は施行からまだ日が浅いものの、会社法策定以降に会計不祥事が相次ぎ表面化した。監査役の権限強化を求める時代の要請が強まったことも考慮すべきだ」と指摘している。

公認会計士法改正案による制度改革の主なポイント
監査法人の体制強化
○業務管理・審査・品質管理体制の整備
○社員資格の非公認会計士への拡大
○業務・財務情報の開示義務付け
監査法人に対する監督・責任の見直し
○業務改善命令など行政処分の多様化
○課徴金納付制度の創設
○有限組織形態の導入
監査人の独立性確保
○独立性についての一般的な規定の整備
○交代制の強化(大規模監査法人で上場会社を監査する主任会計士の継続監査期間を7年から5年に短縮するなど)
○不正・違法行為発見時の金融庁への通報義務付け

米国は官民で厳しい監視
 米国では企業改革法で監査法人、会計士の責任を明確にした一方、投資家や上場企業が不正会計を防ぐシステムを作っている。不正が発覚しても、投資家が容易に損害賠償訴訟を提起できる。いわば、官民による分権型監視システムが特徴だ。不正があればすべて監督当局に報告義務のある日本とは対照をなす。
 企業改革法はエンロン破綻を受けて二〇〇二年に制定。「監査とコンサルティングの同時提供の禁止」「主任会計士と、その監査過程をチェックする会計士は五年以上同一企業を監査できない」など監査法人の独立性を確保するルールを明示した。さらに、監査法人の監査体制をチェックするため、米証券取引委員会(SEC)が監督する格好で、米上場企業会計監視委員会(PCAOB)を設けた。
 上場企業を監査する監査法人は、PCAOBへの登録義務がある。百以上の上場企業を担当する大手は年一回、それ以外は三年に一回検査を受け、結果は一般公開される。PCAOBは懲戒や制裁金処分などの権限も持つ。
 一方、監査法人とその報酬を決めるのは、会計に明るい独立取締役だけで構成される企業の監査委員会。監査対象の上場企業の会計に問題があれば、監査法人は監査委員会への報告義務がある。万一、監査委員会や監査法人の過失で不正会計が起きれば、投資家から集団訴訟にあう。
 監査法人の負担は重い。「上場企業の負担も増え、競争力が落ちた」との批判に配慮、米政府は昨年末に正確な決算書作成のための社内体制整備などを義務づけた「内部統制ルール」を見直した。

2007年04月16日