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改正会計士法、今国会で成立へ(日経新聞2007/06/16)

公認会計士の職業倫理

監査の厳格化加速
 金融庁が提出している公認会計士法改正案が十五日、参院財政金融委員会で全会一致で可決され、今国会での成立がほぼ確実になった。カネボウ、日興コーディアルグループと相次いだ不正会計問題を受け、監査法人・会計士への規制を強化するのが改正の柱で、監査法人への行政処分として課徴金や業務改善命令を新設。当局への不正通報義務を課し、粉飾決算の温床となる企業とのなれ合いを防ぐ。二〇〇八年春をメドに施行する予定で、監査の厳格化の流れが加速する。
課徴金や改善命令新設
不正の通報義務も
 同法改正案は二十日にも参院本会議で可決、成立する見通し。金融庁はこれを受け法律の詳細を定める政省令案づくりを始める。監査法人の規制強化を通じ、なれ合い監査を断ち切るのが狙いで、主に上場企業や非上場の大企業など約五千社の監査に新たなルールが適用される。
 法改正の柱の一つは監査法人の監視強化策。不正を働いた監査法人に対し、経済的な罰則となる「課徴金」を初めて導入する。カネボウ事件では旧中央青山(現みすず)監査法人所属の会計士が逮捕されたが、こうした粉飾決算に加担した場合は、期間中に受け取った報酬の一・五倍の課徴金を科せるようになる。報酬を上回る額の課徴金を可能にし、制裁の色彩を濃くした。
 現行法では、金融庁が監査法人に発動できる行政処分は「戒告」「業務停止命令」「解散命令」の三段階。比較的軽い戒告の次の処分がいきなり「業務停止」になる問題があった。改正法では「課徴金」に加え、内部管理体制の是正を求める「業務改善命令」、担当責任者を一定期間業務から外すことができる「役員解任命令」も新設し、行政処分は合計六種類になる。
 企業とのなれ合い監査を断ち切るため、会計士の規律強化策を盛り込んだ。会計士が不審な経理操作などを発見した場合、企業に伝えた上で有価証券報告書を自主訂正しなければ、金融庁に通報する義務を課した。違反すれば本人に三十万円以下の罰金を科し、監査法人も処分対象になる。
 会計士が同じ企業を継続して監査できる期間も短縮。上場企業百社以上を監査するあずさ、新日本、トーマツの三大法人の主任会計士は最長七年から同五年に短くなる。
 監査法人の経営体制も改善する。投資家向けの情報開示を義務付け、最低でも売上高の内訳の公表を求める。三大法人など大規模監査法人は企業と同様に財務諸表の公開を迫られそうだ。監査法人に出資する幹部である「社員」はIT専門家や経営コンサルタントなど会計士以外にも開放し、外部の目線で経営できる体制づくりも促す。
国際水準になお見劣り
会計士不足 会社法改正
改革、積み残し多く
 公認会計士法は前回二〇〇四年の改正から、わずか約三年で抜本改正するという異例の展開をたどった。粉飾決算が疑われるような不適切な会計処理や情報開示の頻発に対応した措置で、監査法人からは急な規制強化策に悲鳴もあがっている。議論が急ぎ足になった結果、国際水準に比べ見劣りしたまま積み残した課題も多い。
 業界が懸念するのは米国と比べ、監査の担い手である会計士の数が絶対的に少ない点だ。三十三万人いるとされる米国に比べ、日本は二万人に満たない。金融庁は今回の改正法で解決策を盛り込んでいない。国会審議でも「みすず解体で監査業務に嫌気が差す会計士が増えれば、制度自体が崩壊の危機にさらされる」という意見も出た。
 金融庁がこの代替案として考えていたのは、社内のお目付け役である「監査役(監査委員会)」の権限強化だった。現在、経営者が持つ監査法人の選任権や監査報酬の決定権を監査役に委譲する法改正だ。監査役と監査法人が相互に補完し合えば、実務負担の軽減と規制強化を両立できるともくろんでいた。しかし、これを実現するには会社法の改正が不可欠で法務省の所管範囲だ。法務省は今回の同時改正を見送り、積み残しになった。
 金融庁は所属会計士が不正に関与した場合、監査法人に刑事罰を科す仕組みも検討していたものの、導入を見送った。米国では導入されている仕組みだが、課徴金と二重処罰になるという反対論などが背景にある。

公認会計士法改正案の骨子
【監査法人の監視強化策】
○業務停止、戒告の2つの処分の中間的な処分として「課徴金納付命令」「業務改善命令」を新設
○「役員解任命令」も新設
○公認会計士・監査審査会に外国監査法人への監督・検査権限を付与する
【監査法人の規律付け】
○監査先企業で不正を発見した時に当局への通報を義務付け
○同じ会計士が継続して監査できる期間を短縮(大規模監査法人の主任会計士は最長5年に)
【監査法人のガバナンス強化策】
○投資家向け情報開示を義務化
○非会計士が社員になることを認める

2007年06月16日