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大手監査法人、未上場企業の獲得慎重(日経新聞2007/08/24)

中央青山:一時監査人

内部統制強化、契約先を選別
IPO低調の一因に
 二〇〇七年上半期の国内の新規株式公開(IPO)は七十三社と前年同期に比べ二割減り、今年通年でも〇四年以降続いた百五十社超の水準に達しないとの見方が増えている。数年後の上場を目指す未上場企業にとって、監査契約締結という上場準備への入り口で足踏みする例が増え、IPOの低調さは長引くとの見方も出始めた。会計監査の厳格化の流れを受け、監査法人が業務の引き受けに慎重になっていることが背景にある。
 「大手監査法人から契約を結んでもらえないベンチャー企業が増えている」と話すのは大手証券の公開引受部長。上場を目指す企業は証券取引所へ上場申請する際、一般に二期分の財務諸表の会計監査を受ける必要がある。このため「中堅以下の監査法人を探し対応しているようだ」という。
 東証マザーズや大証ヘラクレスなど新興株式市場が整備された七年あまり前から、大手監査法人は上場予備軍の発掘に注力し始めた。新規上場企業と監査契約を結べば上場後数年にわたり安定的な監査収入を得られるためだ。「かつては契約獲得を優先して低価格化が進み、年間五百万円以下で引き受ける例もあった」と大手監査法人の営業担当者は打ち明ける。
 しかし「今は年間一千万円を超えることもある」という。これから成長しようとする企業にとって決して小さくない負担額だ。本業の損益がギリギリの企業では損益が悪化し、上場審査にも影響が及びかねない。
 監査法人が報酬額を引き上げているのは、企業や監査法人を巡る環境が様変わりしたことがある。〇八年度から金融商品取引法に基づく内部統制ルールが導入されるため、上場企業の管理体制などに対し支援や研修など手掛ける業務が増えている。
 また、来春施行される改正公認会計士法では、監査法人に所属する会計士が粉飾決算に加担した場合の課徴金制度などが新設された。新しい事業モデルの企業が上場を目指すなかで、従来より上場準備に時間も人手もより多くとられる。「人材が限られるなかでは、従来からの顧客の上場企業を優先せざるを得ない」との本音が監査法人関係者から多く聞かれる。
 もっとも「新規上場企業の監査をするのは次世代を担う企業を育てるために重要」(あらた監査法人の業務担当執行役・山手章氏)という点では関係者の認識は共通している。あらたは七月に、株式公開アドバイザリー部を発足。年内に株式公開セミナー開催を計画するなど、上場準備会社への営業を本格化し、監査契約獲得に乗り出す。
 ここ数年の新規上場企業の監査契約件数は、監査法人トーマツと、七月末に解散した旧みすず監査法人が上位を争ってきた。旧みすずの事業開発部からは約二十五人が新日本に移籍。新日本にとってIPO支援業務の強化につながる。
 契約対象は「東証やジャスダックなどへの上場を目指し、上場後も市場に評価される企業」(新日本)。「三年程度をメドに上場を目指す企業」(あずさ)を中心に据える。経営や財務など予備調査に加え「経営者の面接などを通じて、将来性や誠実性を判断していく」(トーマツ)。
 大手監査法人の動きは企業の新規株式公開にとって短期的には向かい風だが、契約獲得競争の中で緩みが指摘されていた監査の質が向上すれば、不祥事や業績不振の企業が目立った新興株式市場の信頼回復につながるとの声もある。

2007年08月24日