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企業の会計、国際基準と全面共通化(日経新聞2007/08/04)

会計基準関係

国際組織と日本側大筋合意、2011年までに
 日本の会計基準と世界百カ国以上で利用されている国際会計基準が二〇一一年までにほぼ完全に共通になる。最大の違いだったM&A(合併・買収)に関する会計基準を含む差異をなくす。透明性の高まりで海外からの投資を呼び込みやすくなるほか、日本企業の海外での資金調達も容易になる。日本基準を世界的水準に整備する「会計ビッグバン」が総仕上げを迎える。
M&Aしやすく
 国内の基準作成を担う企業会計基準委員会(西川郁生委員長)が三日、国際会計基準作りを手掛ける専門組織の国際会計基準理事会(IASB)と大筋合意した。一一年までに国際基準とのすべての違いを解消することを目標に具体的な検討に着手する。会計基準委は〇五年以降、国際基準との共通化に向けて作業を進めてきたが、明確に期限を区切っていなかった。来週にも発表する。
 現在、国際基準との最大の相違点はM&Aに関する会計基準。日本は資産を時価評価しないで帳簿価格のまま合算する簿価方式の採用を認めている。だが国際基準や米国基準では「含み益を使った経営者の操作が入りやすい」として時価方式に統一している。国境を超えたM&Aの急増もあり、簿価方式を廃止し、時価方式に一本化する。
 買収時に発生する「のれん代」の処理も相違点。日本では買収した事業の価値が目減りした場合の損失処理のほか、毎年一定額の費用計上を義務付けている。これに対し海外は損失処理だけを求めており、日本も費用計上の廃止を検討する。定期的な費用がなくなれば新興企業などがM&Aをやりやすくなる利点があるが、突然大きな損失が発生し、投資家が混乱する事態も想定される。
 日本は一九九七年に橋本内閣が打ち出した金融システム改革を受けて、遅れていた会計基準の整備に着手。企業の隠れ債務として問題になっていた年金債務や、土地含み損を損益に反映させる会計基準などを相次いで導入してきた。M&Aについては独自基準にこだわる姿勢もみせていたが、国際会計基準の存在感が増したため、差異の解消へ歩み寄った形だ。
▼のれん代
 企業を買収する際、買収される企業の純資産を土地の含み益などを反映した時価で評価し、それを上回る金額を支払うことが多い。投資額と時価で評価された純資産額との差がのれん代で、買収される企業のブランド力などの価値に相当する。
 日本ではブランド価値は減少すると考え、資産として計上したのれん代を最長二十年間で毎年一定額を費用計上する。買収した事業が赤字を計上するなど大幅に価値が目減りした場合には損失処理も必要。国際基準ではブランド力は変わらないと考え、価値が大幅に減った場合のみ損失処理をする。

国際会計基準(きょうのことば)
▽…ロンドンに本部を置く国際会計基準理事会(IASB)が作成・改定する基準で、米国会計基準と並ぶ世界2大会計基準のひとつ。資本市場の急速なグローバル化に対応するため、前身の国際会計基準委員会(IASC)が1973年から世界共通のルールづくりに着手した。
▽…2005年に欧州連合(EU)が域内上場企業に採用を義務付けた。最近では、中国が今年1月から上場企業を対象に国際基準に準拠したルールの適用を開始し、同3月には韓国が2011年までに全面採用すると表明。採用国は100カ国を超えている。日本もこれまで減損会計の導入などで、国際基準や米国基準などとの差異解消を図ってきた。

日本基準の国際共通化の動き    
決算期       日本基準の変更点
2000年3月期   :税効果会計を導入
2001年3月期   :退職給付会計を導入
2006年3月期   :固定資産の減損会計が強制適用に
2009年3月期(予):リース資産のバランスシート計上を義務付け

国際基準と全面共通化、会計ビッグバン総仕上げ
のれん代、減損処理だけに
 会計ビッグバンの総仕上げとなる日本の会計基準と国際会計基準の全面的な共通化は、上場企業のM&A(合併・買収)戦略に大きな影響を与えそうだ。企業合併の場合、従来は従業員の士気などに配慮して対等合併にこだわる例が目立っていたが、今後はほぼ同規模企業間の合併であっても会計上は買収企業と被買収企業を区別することを迫られ、あいまいな対等合併は許されなくなる。(1面参照)
 企業買収に対する経営者の考え方が変わる可能性もある。被買収企業の時価純資産を上回って支払う金額(のれん代)は実質的な買収コストに相当する。こののれん代の定期償却が不要になれば、経営者は期間損益への負担を気にせず買収を検討できるようになる。買収を足がかりに成長を目指す新興企業にとって、会計ルール変更による利点は大きい。
 一方でのれん代の定期償却を廃止すれば、実質的な買収費用を計上しなくなり、投資家にとって買収の成果がわかりにくくなるとの指摘も出ている。これまで企業会計基準委員会がのれん代の定期償却維持にこだわったのも、こうした買収成果を正確に表すことが必要と考えてきたためだ。
 のれん代を減損処理だけにすると、被買収企業の収益が急速に悪化した場合、減損処理額が膨らんで業績を圧迫する。世界最大の携帯電話会社である英ボーダフォンは、二〇〇七年三月期に百十六億ポンドにのぼるのれん代の減損処理を迫られ、約五十三億ポンド(約一兆二千億円)の最終赤字となった。
 欧州連合(EU)は〇九年から、域内で資金調達する日本企業に対して国際基準と同等の会計基準による財務諸表開示を求める。日本企業は追加開示が必要になり、余計な負担がかかる懸念があったが、全面共通化への道のりが明確になることで、こうした不安が解消しそうだ。
 米国は〇九年までに国際基準との主な差異をなくす方針を決めている。日本基準も共通化すれば、日米欧の会計基準がほぼ同一の基準となる。

2007年08月04日