2010年02月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28            

会計基準の共通化試される日本(中)(日経新聞2007/09/07)

会計基準関係

決算書の比較、容易に
一段の改革、企業に負担も
 「特命チームを作って対応しなければ」「ウチのインドネシア支社ではとてもできない」――。監査法人トーマツが八月に開いた在外子会社の会計基準のセミナー。参加した経理担当者からはため息が漏れた。
 基準共通化の一環として、日本は二〇〇九年三月期から在外子会社の会計処理を統一することを決めている。米国以外の海外子会社では国際基準を採用するのが主流だ。
 トーマツが作成した新基準への対応マニュアルは実に三百ページにものぼる。開発費を資産に計上するか費用に計上するかなど、判断基準は詳細だ。各地に在外子会社を多く抱える企業からは「決算作業が追いつかない」との声も上がる。
 日本基準と国際基準の二〇一一年までの全面共通化が決まったことで、日本の会計基準は一段の改革が避けられない。影響が最も大きいのが、M&A(合併・買収)時に発生するのれん代をめぐる処理だ。
 買収価格が被買収企業の時価純資産より大きい場合、上回った分をのれん代として計上する。日本基準では最大二十年で規則的に償却するが、国際基準では償却しない。収益力の低下など事業の価値が下がった場合にだけ減損処理をする。
 英ボーダフォンは〇七年三月期に百十六億ポンドの減損処理をした結果、約五十三億ポンド(約一兆二千億円)の最終赤字に陥った。のれん代は貸借対照表に残り続けるため、海外企業では突然、巨額損失を計上する例が相次ぐ。
 英ピルキントンの買収で二千四十八億円ののれん代を抱える日本板硝子。「一一年に向けてどうするかはまだ検討すらできない段階。買収時に日本の基準で定期償却することを既に決めており、途中で処理方法を変えるのは難しい」と戸惑っている。ソフトバンクは〇七年三月期にのれん代を償却しなければ、営業利益が五百三十五億円増えた計算になる。
 日本は国際基準へ近付く努力をしてきたものの、実は会計に対する根本的な考え方で大きな違いがある。大和総研の吉川満常務理事は「日本では純利益を重要視する考えが根付いているが、欧米では貸借対照表の変化を重視する。これを変えていくのは難しい」と指摘する。
 損益計算書と貸借対照表――。このどちらを重視するかで、利益の計算は全く違ってくる。損益計算書は、売上高から費用を引いて「純利益」を計算する。ところが、貸借対照表でも利益を計算できる。
 「包括利益」と呼ばれる考え方で、資産と負債の差額である純資産の期間変動を利益と見なす。国際基準は「純利益」を廃止して「包括利益」に一本化することを検討している。
 包括利益は、企業が持ち合い株式を保有する日本に影響が大きい。トヨタ自動車株の多額の含み益を持つ豊田自動織機。〇七年三月期末の有価証券の含み益は一兆千五百七十七億円で、純資産の六四%を占める。
 同社の含み益は一年前に比べ千百六億円増えた。包括利益では、この増加も利益にカウントする。保有株の時価の変動はそのまま毎期の損益に反映されるため、株式を売却しても損益には影響しない。含み益の実現で利益をつくる日本型決算はできなくなる。
 企業の中には「国際基準との共通化が進めば、海外で資金調達がやりやすくなる」(キリンホールディングスの佐藤一博副社長)と前向きに評価する声もある。グローバル企業や外国人株主が多い企業では、会計基準が国際的に通用するかどうかは重要な意味を持つ。
 財務諸表を活用する投資家にとっても「どの国の企業であろうと各社が公表する決算書を容易に比較できることが重要」(安田投信投資顧問)であることは間違いない。会計観の違いを超えて、企業を同じ物差しで評価できる利点を追求することが大切だ。

2007年09月07日