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ブラックマンデー20年(日経新聞2007/10/22)

その他

ブラックマンデー20年
サブプライム、世界経済に暗雲
繰り返す市場の慢心
 一九八七年十月のブラックマンデー(世界同時株安)からちょうど二十年。ワシントンに集まった日米欧七カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁は再び金融市場に広がる亀裂に直面した。順調だった世界経済にも陰りが差す。二十年前のような危機の再発を防ぐかじ取りこそが試される。
身構えるG7
 慎重さが目立ったG7会議だった。ポールソン米財務長官は「住宅の落ち込みは米経済にとって最大のリスク」と率直に認めた。二十年前のベーカー米財務長官と何という違いだろう。
 財政、経常収支という米国の双子の赤字を棚上げにして、ベーカー長官はドイツ連銀の金利高め誘導を非難した。ベーカー氏は弁護士出身で、「市場に枠をはめたがった」と行天豊雄元財務官。ドル高是正のプラザ合意や為替安定をうたったルーブル合意はその産物だが、米国自身が経済規律を守らなかった。
 ブラックマンデーは不安を覚えた市場からの警告だった。教訓を正面から受け止めたのが、就任二カ月目のグリーンスパン米連邦準備理事会(FRB)議長だ。市場の力を借りずには経済を運営できない時代がやって来た、と考えたのだ。
 クリントン政権時代の九〇年代後半に、米大手証券ゴールドマン・サックス共同会長出身のルービン財務長官と組んで、グリーンスパン議長は市場時代の経済運営を確立した。財政の規律を保ち、お金は政府でなく民間で使えるようにする。金利の微妙な上げ下げで物価を安定させつつ、景気の振れを小さくする。
 今のバーナンキFRB議長や、同じくゴールドマン共同会長出身のポールソン長官も、市場規律重視という点で共通する。世界経済がここ数年、五%近辺の高めの実質成長を続けられたのも、そのたまものだ。
 ところがサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題を機に、世界経済に暗雲が漂う。米国株は大幅安となり、ブラックマンデーの悪夢がよみがえった。
 一兆三千億ドル、円換算で百五十兆円のサブプライムは焦げ付きが増えたとしても米経済に吸収不可能な規模ではない。問題はローンをまとめ証券化した金融商品が米国だけでなく、世界中に販売された点にある。
 商品の仕組みが複雑すぎて、金融関係者も値段を付けられずにいる。金融商品は売るに売れなくなり、ファンドや金融機関は短期の資金繰りに窮している。
 大手米金融機関十社は直近の四半期で二百三十億ドルの関連損失を計上した。銀行は融資条件を厳格にしだし、米住宅市場は一段と冷え込んでいる。家計にもローンの負担がのしかかる。
 今回の金融動乱の直接の原因はブラックマンデーの時と異なるが、共通の問題点も数多い。良好だった経済に市場が慢心した。当時は企業のM&A(合併・買収)、今回は証券化やプライベートエクイティ(未公開株)と金融技術が独り歩きした。カネ余りも手伝ってリスク評価が緩んだ。
高まる依存心
 FRBはブラックマンデー後の迅速な対応の成功と日本のバブル崩壊後の失敗を教訓に、バブル崩壊後すみやかに金融緩和に動くようになった。結果、市場では「いざとなればFRBが何とかしてくれる」との依存心が高まり過ぎている。
 今回も米欧当局は潤沢に資金を供給しているが、ちょっと勝手が違う。証券化商品の市場は地下茎のように絡まり、必要とするところに資金が届かない。
 浮かれすぎたのは米国だけでない。住宅価格の上昇ピッチはここ数年、英国、スペインなど欧州の方が米国より速かった。万一、住宅価格の下落が欧州に波及すると、世界経済は厳しい局面に入りかねない。
 その際は、企業や家計が過剰負債に直面したバブル崩壊後の日本のように、財政、金融政策が効かなくなるリスクさえある。外需依存の高い日本にとっても、人ごとではない。世界経済は薄曇りになった程度だが、地平線に見える暗雲が広がる心配はないか。G7の政策運営は気の抜けない局面を迎えた。

2007年10月22日