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タスコ迷走する資本政策(下)(日経新聞2007/12/20)

不適切な会計処理

タスコ迷走する資本政策(下)
山本健一郎社長に聞く――再構築に荒療治必要
「説明不足は深く反省」
 ジャスダック証券取引所の注意喚起措置を受けながら、新株有利発行と株式併合に踏み切ったタスコシステム。既存株主にツケを回すような資本政策で禍根を残したが、投資家とは今後どう向き合っていくのか。山本健一郎社長に聞いた。
 ――マザーズ上場のモックやヘラクレス上場のアライヴコミュニティが、同様の資金調達で取引所から「公表措置」を受けています。前例がある中での決定でした。
 「モックやアライヴの例とは違う。当社の場合、株式を併合するのは、新株予約権を発行した後だ。確かに予約権の行使価格は現在の株価に比べ約二割低い四千円だ。しかし、来年二月一日に十株を一株に併合すれば(株価は理論上十倍になるが)、行使価格も(同様に十倍の四万円に)調整される」
 「これに対し(モックなどのように)株式併合後に新株予約権を発行すれば、当然ながら併合による価格調整の影響は受けない。行使価格が四千円なら四千円のままだ。こうした過度に引受先に有利な資金調達ではない点を強調したい。そもそもジャスダックとは一週間も前から相談した上での開示だった」
 ――ですが十株未満の少数株主は株式併合で「端株」株主となり、株主としての権利を失いかねない点は同じです。
 「それについては断腸の思いだ。しかしタスコを存続させ、完全復活させるには、今回の資金調達は欠かせない経営判断だった。二〇〇七年十二月期中に債務超過を解消しないと、二期連続の債務超過となり、上場廃止基準に抵触するという大きな課題もあった」
 「一度壊れた事業モデルを再構築するには相当の荒療治が必要。それには増えすぎた浮動株を適正な数に戻し、中長期の視点で保有してくれる安定株主が不可欠だった。併合で株式事務や株主優待の関連費用が減り、年間四億五千万円程度のコスト削減効果も期待できる。十一月十六日の計画発表直後の株価が思ったより下げなかったのも、評価してくれる投資家がいたためではないか」
 ――個人株主を軽視した発言に聞こえます。
 「そんなことは決してない。外食は消費者相手の商売。顧客が株主という姿が一番望ましい。だからこそ手厚い優待制度も続けてきた。ただ本当の意味で会社の再生を考えると、上場維持が最重要課題だ。まずは経営をしっかり立て直し、それから中長期で株主に報いるしかない」
 「タスコはこれから良くなる。もう一度チャンスを与えてくれる個人株主はぜひ、十株以上に買い増してほしい。ただ説明不足だった点は深く反省したい。併合前の権利付き最終売買日(一月二十五日)まで、できる限りのIR(投資家向け広報)活動をやっていく」
 ――今回の資金調達に応じた投資ファンドは過去に運用実績がありません。信用できますか。
 「いずれも、きちんとしたところから紹介を受けた。産業再生ファンド投資事業組合(横浜市)は経験を持ったベンチャーキャピタルが運営にかかわっている」
 ――これまで同様、すぐ転売しそうですが。
 「ジャスダックには二年間保有するという各ファンドからの確約書も提出している。短期転売は考えづらい」
記者の目
個人株主にツケ 損失は大きく
 元証券マンらしく見ようによっては「資本の論理」が発想を貫いている。十株未満の株主は全体の八一%を占め約三万七千人に上るが、議決権の合計は一九%に満たない。原則多数決の「資本の論理」の前ではあくまで少数派にすぎない。「中長期」「安定株主」を強調した発言からは、時に短期売買する「少数株主」とは別格扱いという姿勢が浮かび上がる。
 ただ度重なる市場調達で株数をいたずらに増やし、株価を低迷させたのはほかならぬタスコ自身。二年前、企業再生のジェイ・ブリッジが出資した際に経営参画した山本社長も、タスコ業績悪化の責を負う一人だ。そのツケ払いを長年ファンとして持ち続けた個人株主にも強いるのだから、イメージ第一の外食企業としては損失も大きい。社長として果たすべき職責は今後、ますます重くなる。

2007年12月20日