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点検内部統制元年(上)(日本経済新聞2009/03/19)

内部統制

点検内部統制元年(上)
不正発見相次ぐ
形式優先、実効性伴わず
 二〇〇九年三月期から始まった金融商品取引法による「内部統制報告制度」が最初の決算期末を迎える。同制度の目的は財務諸表の信頼性向上。企業は業務が適切に実行される仕組みを整え、まず六月末に今三月期分の内部統制報告書を提出する。罰則もある厳しい規定だが、経営者や従業員がルールを守る意識を高めて実効性を確保できるか。取り組みを追った。
決算発表延期
 「会計業務は担当者に任せきりで、誰もしっかり管理していなかった」。ブラジルとメキシコの子会社で財務担当者などによる不適切な経理処理が発覚したセイコーエプソンの久保田健二常務は、記者会見で苦渋の表情を浮かべた。同社によると不正の手口は売掛金の過大計上などで、内部調査で見つかったという。
 一月末の会見では損失は三十億円程度と見積もっていたが、調査の結果、約四十四億円に拡大。不正会計の影響で〇八年四―十二月期の決算発表は延期に追い込まれた。
 今回の内部統制報告制度が施行される以前、エプソンを含め一定の大企業は〇六年から会社法に基づき内部統制を導入していた。だが先駆けて制度を整えたはずの大企業でも不祥事が相次いだ。
 IHIは一月末、建機レンタル会社と手形を介した中古建機の売買を繰り返し、債権に回収不能の懸念が発生。百三十五億円の特別損失を計上した。ジーエス・ユアサコーポレーションでは昨年七月、社内会議で照明子会社の十年以上の循環取引が明るみに出た。子会社内外で取引の不自然さを指摘する声もあったが是正に至らなかった。
 大和総研の大村岳雄経営戦略研究部長は「形式だけ整えても機能しない」と指摘する。内部統制の実効性を上げるには、身の丈に合った制度づくりと法令順守の意識の両方が必要となる。金商法の下では、経営者が内部統制の有効性を評価し報告書にまとめることが義務付けられている。報告書は監査法人の監査を受ける必要があり、虚偽記載があれば経営者に罰金や懲役が科される。
費用負担重く
 実効性を追求するうえで費用負担も課題だ。四半期決算の導入や内部統制監査で企業の費用負担は重くなった。日本監査役協会の調査によると、回答した千百九十八社のうち約三割の企業で監査報酬が前年度に比べ五―八割増えた。東京証券取引所の斉藤惇社長は二月、監査法人が主催する講演会で「(内部統制の整備は)新興企業も一部上場企業と同じとの誤解がある。監査法人には適正な指導をお願いしたい」と述べた。
 こうしたなか、身の丈に合った手法で費用対効果を上げる企業も出てきた。「関連費用は私の人件費だけ」。東証二部上場の業務用洗剤メーカー、ニイタカで内部統制を整備した雜賀努氏はこう話す。売上高百億円強の業態に合わせ、内部統制の整備を簡略化した。
 ニイタカでは内部監査時に調べる点を必要最小限に抑え、紙の資料も減らした。監査法人の監査時間は一般的な企業の五分の一程度という。雜賀氏は工場や営業所に何度も足を運んで制度の目的を説明した。「現場が原則を理解しないと内部統制が効かない」と話す。
 業務内容、社員数、拠点の数、社員や経営者の意識――。不正が起きやすい“弱点”は企業ごとに異なる。実態に即した制度の整備が必要だ。
▼循環取引
 複数の企業間で商品売買を不正に繰り返す取引。伝票上のやり取りだけで、実際の在庫の移動がない場合が多い。売上高の水増しになり、財務諸表の虚偽記載につながる。
不適切な会計処理などを公表した主な企業   
会社名   内 容
伊  藤  忠   物流を伴わない実質的な金融支援取引
スギHD   元取締役が資金を着服
オオゼキ   入金伝票の改変などで元帳残高水増し
鹿  島   架空循環取引
GSユアサ   架空売買や架空工事の請負
ビックカメラ   不動産証券化の際の不適切な会計処理
エプソン   海外子会社による売掛金の過大計上など
I  H  I   中古建機売買を通した実質的な資金援助
キユソ流通   顧客に対する不適切な請求

2009年03月19日