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点検内部統制元年(下)(日本経済新聞2009/03/20)

内部統制

点検内部統制元年(下)
経営者の不正防ぐ
企業統治と両輪で機能
 「コーポレートガバナンス(企業統治)が欠如していた」。二月二十日、ビックカメラの宮嶋宏幸社長は記者会見で頭を下げた。同社は証券取引等監視委員会の調査を受け、二〇〇八年八月期まで過去七期分の決算を訂正し、創業者の新井隆二会長は引責辞任した。
 監視委が問題視したのは、〇二年に実施した資産流動化の手法だ。池袋本店(東京・豊島)などの不動産を特別目的会社(SPC)に売却した際、本体とSPCの実質的な関係を考慮すれば、本来計上すべきでない売却益を計上していた。
適正運営が前提
 調査報告書によると、SPCに出資した資産運用会社には、新井氏(当時社長)が別会社経由で実質的に出資。保有するビックカメラ株も担保に提供していた。報告書は「元社長と法人の区別がされず、適正な会社運営をしていたとは評価できない」と指摘した。
 内部統制は正確な財務諸表を作るうえで、経営者が会社を適正に統治していることを前提とする。経営者の意識が緩んでいては機能しにくい。
 まして「経営者自身が意図的に不正をした場合、内部統制による解明には限界がある」と新日本監査法人の紙谷孝雄・統合監査品質管理部長は言う。例えば架空循環取引では、取引先と口裏を合わせて契約書や伝票類をそろえている場合がほとんど。会計士も簡単には見抜けないという。カネボウのように経営陣が不正に関与した会社の例ほど、虚偽記載の金額も大きくなりがちだ。
 特設注意市場銘柄に指定されたプラコー。〇七年九月中間期と〇八年三月期通期の決算で売上高を前倒し計上し、有価証券報告書などに赤字を黒字と虚偽記載したとして二月に金融庁から課徴金納付命令を受けた。同社の調査報告書では「主導的立場の関与者は代表取締役会長兼社長と専務」と説明。「売り上げの早期計上を示唆するような指示をした」という。
 マザーズ上場のオー・エイチ・ティーは〇七年十二月、内部統制を整備する過程で過年度決算の訂正が必要になったと発表した。同社は売り上げ計上ルールの不備が原因だと説明したが、証券取引等監視委の強制調査の結果、元社長や取締役が共謀して架空の売上高を計上した疑いが浮上。元社長らが広島地検に逮捕され、上場廃止になった。
 内部統制の限界は日本だけの問題ではない。今年初め、インドのIT(情報技術)大手サティヤム・コンピュータ・サービスの経営者は、千億円近い巨額粉飾を告白した。〇一年に米ニューヨーク証券取引所に上場。米国の内部統制ルールに従っていた。投資家は数年間の粉飾隠しに衝撃を受け、アジアの株式相場の下落に拍車がかかった。
 創業者のラマリンガ・ラジュ会長(当時)が役員に送った電子メールによると、貸借対照表に一千億円強と記載していた現預金は六十億円余りしかなかった。〇八年三月期の年次報告書では内部統制に「重大な欠陥」はないと表明しており、監査を請け負ったプライスウォーターハウスクーパースの信頼も揺らいだ。
現場から情報を
 トップ主導の不正では、不当な指示を受けて伝票や帳簿の操作への関与を強いられる部下がいるのが一般的だ。現場で不正の端緒に気付く機会はある。八田進二・青山学院大学大学院教授は「こうした情報をきちんとすくい上げ、リスクに対応すべきだ」と話す。
 経営者の不正を防ぐには「内部統制とコーポレートガバナンスが両輪で機能することが必要」と久保利英明弁護士は言う。内部通報者を守る仕組みや、監査役や会計監査人の独立性、株主による経営監視などがそろって初めて信頼度の高い財務報告が作られる。

2009年03月20日