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売り上げが変わる国際会計基準の波紋(1)(日本経済新聞2009/12/01)

IFRS関係

在庫リスクの有無で激変
百貨店、商慣習の見直しも
 企業規模の目安であり利益成長を左右する「売上高」は、経営者がこだわる重要な経営指標のひとつだ。国際会計基準(IFRS)が2015年にも日本で強制適用されれば、バラバラだった売り上げ計上ルールが整理される利点がある一方、企業の実務や投資判断が変わる可能性を指摘する声もある。売上高をめぐる議論とその影響を探った。
 1904年に誕生した日本初の百貨店、三越日本橋本店。恵比寿店や新宿アルタ、法人外商などの売り上げまでも合算し、長く「売上高日本一」の座を守ってきた。一番店であることが売れ筋商品の仕入れでも有利だ。その売上高が国際会計基準の適用で半減する可能性が出てきた。
 百貨店の仕入れ形態は自ら在庫リスクを負う「買い取り」と、負わない「消化仕入れ」に大別できる。消化仕入れとは、売れたときに初めて仕入れ代金を支払う取引手法だ。現在はどちらも商品の実売額を売上高に計上している。
 だが、国際基準では消化仕入れの主体的な販売者をメーカー・卸と判断。百貨店は代理人として手数料収入を得ているとみなされ、現在の粗利益に近い額を売上高に計上する。
 一般に百貨店の取扱高の約7割が消化仕入れだ。日本橋本店も消化仕入れの割合が約7割、粗利益率がすべて同じとすると、売上高は2009年3月期の約2500億円から約1200億円に減る。「今は昔ほど売上高を追わなくなったが、国際基準の数字になれば現場では使えない」(三越伊勢丹ホールディングス幹部)
 利益に影響なく売上高の計上方法が変わるだけならば、投資家向け広報(IR)を工夫する程度で済む。問題は計上方法の変更が、長く守られてきた百貨店の商慣習を揺さぶる可能性を秘めていることだ。
 百貨店の消化仕入れは日本独特で、1950年代に確立したとされる。百貨店は売れ残りリスクを負わずに多様な商品を仕入れられる一方、メーカーや卸は店頭の価格決定に関与しやすく、店頭情報を開発や生産に生かせる。
 大手百貨店は取引先が1万社超に上り、単品ごとの管理はかなり難しい。新ルールになればシステムなどで「きめ細かい利益管理が必要」(大和証券SMBCの津田和徳アナリスト)になる。
 すでに電鉄系などでは、コスト削減のために百貨店の売り場に自社店員を置かない賃貸方式に移行する動きがある。「消化仕入れから賃貸型の方向に行かざるを得ないだろう」(小田急電鉄の大須賀頼彦社長)。百貨店のビジネスモデル見直しを促す公算もある。
 売上高がいわば「純額」に切り替わることから、販売奨励金などリベート支払いの商慣習も見直しを迫られる可能性がある。現状は販売促進費として計上することが多いが、実質割引であれば売上高から控除する。食品などメーカーの売上高が減少しかねない。
 国際基準はより取引実態に近い処理を求めており、今後、リベートなど「どんぶり勘定」の見直しに拍車がかかりそうだ。

百貨店の仕入れ類型      
買い取り:メーカーから店頭に仕入れたときに伝票を切り、百貨店が所有して販売。残った在庫は百貨店が処分
消化仕入れ:店頭に仕入れたときはまだメーカーが所有。販売時に仕入れ伝票を切ってメーカーに支払う。売れ残ればメーカーに返す
国際会計基準になると…
買い取り:百貨店が在庫リスクをとっているため、商品の販売価格そのものを売り上げとして計上する
消化仕入れ:在庫リスクを負っていないため、販売価格のうち百貨店の取り分(手数料)のみ計上する

2009年12月01日