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税制大綱決定(日本経済新聞2009/12/23)

所得税

子育て世帯に手厚く
 政府が22日閣議決定した2010年度税制改正大綱は、所得税と住民税の扶養控除を見直し、民主党が掲げる「控除から手当へ」という方向に一歩踏み出した。中学生以下の子ども2人がいる年収700万円の世帯は13年に年35万~47万円程度の手取り増額が見込める。ただ、子ども手当など家計支援を裏付けする財源は国の借金である国債などで賄うことになり、将来への不安を残した。

2013年時点 中学生以下2人、年収700万円なら
35~47万円収入増
 政府は来年度予算案に中学卒業まで月2万6000円(来年度は半額)支給する子ども手当と高校授業料の無償化を盛り込む方針。こうした直接的な手当の財源に充てるため、15歳以下の子ども1人当たり所得から一定額(所得税は38万円、住民税は33万円)を差し引く扶養控除を廃止、高校生の子どもがいる世帯に適用する特定扶養控除は縮小する。高所得者に有利な所得控除から低所得者に手厚い手当への切り替えを進める。
 一方、マニフェスト(政権公約)に明記した配偶者控除の廃止は今回、見送った。しかし税制大綱には「今後見直しに取り組む」と表現し、手当の財源として控除を廃止する可能性に言及した。
 大和総研の試算によると、3歳~小学生の子ども1人を持つ専業主婦世帯で年収500万円の場合、現行の児童手当は廃止されるものの、子ども手当が全額支給されれば、所得税と住民税の扶養控除廃止に伴う増税額を考慮しても19万7900円のプラスとなる。
 小学生2人の場合は年収500万円で39万7900円、1000万円では40万6000円のプラスとなる。所得制限がある児童手当を受け取っていない世帯は、子ども手当による恩恵が大きい。児童手当の対象外である中学生の子どもがいる場合は手取り額がさらに増える世帯が多い。
 半面、年収2000万円になると所得税の増税額がかさみ、手取りの増加分は少なくなる。
 まず10年4月分から児童手当が廃止され、子ども手当の半額支給が始まる予定。サラリーマンの場合、扶養控除廃止はこれより遅れて所得税が11年1月、住民税は12年6月から適用される見通し。すべての制度改正の影響が反映するのは13年になる。
 高校生がいる世帯には授業料の無償化と特定扶養控除の縮小が影響する。第一生命経済研究所の試算によると、年収500万円の世帯で9万5500円、1000万円では5万8000円のプラスとなる。控除見直しと組み合わせれば、低所得者に手厚い仕組みだ。
 ただ11年度以降、配偶者控除などを見直せば、手取りが減る世帯が出てくる可能性もある。
2013年の手取りはこうなる
年収別の手取り変化

国力高める視点欠く
 鳩山政権の初舞台である税制改正は「3つの制約」に悩んだ。2カ月余りという作業期間の短さ。2009年度税収が予算額を9兆円下回るという財政の厳しさ。そして政治主導の意思決定を仕切る司令塔がいないという人材と経験の不足だ。
 その結果、来年度の税制改正大綱には目先の財源確保や公約実行のメンツにとらわれた短期的な思惑が透けて見える。
 日本経済は根深いデフレの下で、名目の国内総生産(GDP)が1年半もマイナス傾向にある。経済を伸ばす発想がないまま、あれこれと給付策を積み上げるのは将来世代に対しても責任のある態度とはいえない。
 今回の税制大綱に限らず、民主党の経済運営には、日本が中長期的に「何で食べていくのか」の戦略が欠けている。高い成長が見込める分野に資源を集中し、少子高齢化や国際競争の逆風を克服しないと、結局は元手となる税収が上がらず、政策の手足を縛る。
 企業には厳しく、個人に対しては優しい政策を進める「福祉経済」の発想には限界がある。防衛予算を上回る巨額の子ども手当を配っても、将来への不安を残したままでは貯蓄に回るだけで、経済効果も規模ほどに大きくはならない。企業部門を刺激して日本経済の活力を高める税制の設計が求められる。
 政策当局者は「消費税の議論はする」という。だが不人気な消費税増税を「4年間はやらない」という与党合意をなぞるのではなく、増税を正面から問う方が理解を得られるのではないか。
 法人税率引き下げや納税者番号制度などの改革を進め、経済と企業をいかすのが王道だ。
 民主党政権が長期支配を目指すなら、もっと踏み込んだ将来像を見せてほしい。

ガソリン「減税」はなし
 ガソリン税の上乗せ課税(1リットルあたり約25円)は「当分の間」、現在の税率水準を維持する。党が要望した「原油価格の異常高騰時に課税を停止できるような措置」は来年の通常国会に提出する税制改正関連法案に盛り込む方向。課税停止の基準や小売価格への影響をどう考慮するかなどが課題となりそうだ。
 自動車重量税は国税の暫定税率の半分にあたる約1800億円規模を減税。地球温暖化対策の視点も取り入れ、新車登録から18年以上経過した車は減税の対象外とする。
 大綱には2011年度実施に向けて地球温暖化対策税の検討を進めると明記した。

たばこ1箱、100円値上げ
 たばこ税は1本あたり3・5円の増税が決まり、同5円程度の値上げが固まった。20本入り1箱の標準的な価格は現在の300円が400円に上がる。たばこ税は税収確保の手段として1本あたり1円程度の小幅増税を繰り返してきた。政府税調は「健康の観点から消費を抑制するため税率引き上げが必要」と姿勢を転換。過去に例がない大幅増税に踏み切る。
 政府は国・地方で1600億円の増収を見込むが、消費量が大幅に減れば減収となる可能性もある。増税の実施時期は来年10月。

贈与税非課税枠、来年は1500万円に
 2010年度税制大綱では、住宅を購入するため親や祖父母から受け取った資金にかかる贈与税の非課税枠(現行500万円)を拡大する。2010年中に贈与を受けた場合の非課税枠は1500万円、11年中は1000万円となる。高齢者が持つ資産の贈与を促し、若年層の住宅投資につなげる狙いがある。贈与を受けた年の所得金額が2000万円以下の人が対象だ。

株投資の所得は年100万円非課税
 金融関係では個人マネーを株式市場に呼び込むため、上場株式などから得られる配当や譲渡益について年100万円まで非課税とする「少額非課税制度」を創設する。3年間で総額300万円が上限。昨年末に延長を決めた証券優遇税制と入れ替わりで導入するため、実施は2012年初めになる見通しだ。
 所得税の生命保険料控除を12年契約分から再編・拡充することも決まった。現行では生命保険料を2分類し、控除限度額は5万円ずつ計10万円。新たに介護医療保障保険の分類を設け、3分類で4万円ずつ計12万円まで控除できるようになる。
 「金融一体課税」に向けた金融商品間の損益通算範囲の拡大は、11年度改正へ議論を持ち越した。

巨額の家計支援、将来世代にツケ
 2010年度税制改正では配偶者控除や23~69歳の成年部分の扶養控除廃止を見送ったため、マイナスの影響を受ける世帯はほとんどなく、子どものいる世帯は家計支援の恩恵を受ける。ただ、子ども手当は満額支給で5兆3000億円、高校無償化も4500億円の財源が毎年必要となる。巨額の家計支援には財源面の不安が消えない。
 今回決めた所得税と住民税の控除見直しで捻出(ねんしゅつ)する金額は1兆円程度。民主党がマニフェストでうたった無駄遣いの削減も想定通りに進んでいない。子どものための手当が、将来世代の負担となる赤字国債でまかなわれる皮肉な構図が続く。民主党はマニフェストに租税特別措置や配偶者控除を廃止して約2兆7000億円を確保すると明記した。家計支援を続けるためには税収を増やす工夫や、踏み込んだ税制改正が欠かせない。

2009年12月23日