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日航、きょう更生法申請(日本経済新聞2010/01/19)

企業再生

日航、きょう更生法申請
政府、全面支援を表明へ
 日本航空は19日、グループ中核2社とともに東京地裁に会社更生法の適用を申請する。その直後に公的機関の企業再生支援機構が支援を決定。政府も通常運航に支障が出ないよう全面支援を表明する方針だ。日航は機構の管理下で再建を目指す。機構は金融機関による債権放棄や資本増強策などで日航の財務体質を改善。路線整理や人員削減などのリストラも進め2013年までに再建を完了させる考え。(企業再生支援機構は3面「きょうのことば」参照)=関連記事9面、社会面に
 日航と日本航空インターナショナル、ジャルキャピタルの3社が更生法の適用を申請する。機構は金融機関など主要関係者の合意を得た上で進める「プレパッケージ(事前調整)型」の法的整理手法を活用。更生法の適用申請後に機構が管財人と資金の出し手(スポンサー)になる。運航や営業に支障が出ないよう燃料や機内食などの一般商取引や利用者特典のマイレージは全面保護する。
 政府はすでに海外で混乱が起きないよう大使館などを通じて一般商取引債権の保護方針を関係各国に伝えているが、19日以降は国土交通省を中心に監視を強化するなど万全の支援体制を取る。
 日航の新会長には京セラの稲盛和夫名誉会長の就任が内定、新社長は日航の中堅幹部から内部昇格させる方向で調整中。
 日航は機構などから計6000億円のつなぎ融資を受け、機構は取引金融機関などに総額7000億~8000億円の債権放棄を要請する。日航株について証券取引所は更生法の適用申請時点で整理銘柄とし、その後1カ月間は売買できる見通し。機構は100%減資し、上場を廃止する方針。
<日航の再建スケジュール>
日航株終値5円
 18日の東京株式市場で日本航空株の終値は前週末比2円(29%)安の5円だった。会社更生法の適用申請を19日に控え、上場廃止への警戒感から2002年10月の旧日本エアシステムとの経営統合後の最安値を更新した。少ない資金で利益を稼ごうとする個人投資家の短期売買も引き続き活発で、売買高は4億5231万株と東京証券取引所1部の19%を占めた。

企業再生支援機構(きょうのことば)
▽…経営不振の企業を再建するために昨年10月に官民共同で設立した公的機関。金融機関には債権放棄などの支援を求める一方で支援機構が自ら不振企業の債権を買い取り、有利子負債などの負担を軽減する。出資や融資によって再建資金も手当てする。人材の派遣も手掛ける。
▽…事業資金は政府保証によって借り入れており、支援する企業には厳しいリストラも課す。債務超過の企業の株式は大幅に減資して株主の責任を問い、経営者には原則として退陣を求める。支援決定から3年以内に保有株式や債権を新しいスポンサーに売却し、再生を完了するよう関連法で定められている。

日航新経営陣、京セラ元副会長も迎える、稲盛氏をサポート
 日本航空と同社を支援する企業再生支援機構は京セラ元副会長の森田直行氏(67)を新経営陣に迎える方向で調整に入った。肩書は未定だが、2月1日付で就任する見通し。日航の次期経営陣では、会長に京セラの稲盛和夫名誉会長(77)が内定しており、森田氏は稲盛氏をサポートして日航再建を進める。(1面参照)
 森田氏は稲盛氏から直接薫陶を受けた世代で、組織を小さな集団に分けて厳格に採算を管理する「アメーバ経営」に精通している。現在は京セラグループ会社でアメーバ経営に関するコンサルティングなどを手掛けている。
 日航は19日に会社更生法の適用を申請し、その直後に機構が支援決定する。

日航再建、GMリストラ責任者に聞く
顧客基盤維持
時間との戦い
労組と交渉、強い決意を
 日本航空の再建手法は米ゼネラル・モーターズ(GM)の昨年6月の法的整理が参考になったといわれる。両社はどこが共通し、どこが違うのか。当時、GMで最高リストラ責任者(CRO)を務めた米コンサルティング会社、アリックスパートナーズのアルバート・コッチ副会長に聞いた。
 ――日航もGMも再建に政府が深く関与する。
 「日航に言及する立場にはないが、一般論で言えば、資金の出し手がいない局面では政府しか救えない。破綻すれば経済全体に影響が大きい」
 ――日航は日本の大企業で初めて事前調整型を用いる。
 「当初は米政府も(日航のように)私的整理を検討していたが、債権者すべてとの調整には時間がかかりそうだったので法的整理に切り替えた。再生のカギは顧客基盤を損なわないことだ。時間との戦いを考えれば事前調整型が有効だ」
 ――日航は積み残した調整作業も多いようだ。
 「GMも申請後に持ち越した作業はあったが、事業計画は綿密にできていた。(日航ができていないとされる)民間金融機関との資金繰りに関する合意もできていた」
 ――株主責任の問い方でも日航は揺れた。
 「私的整理なら株主に少し残すこともあるが、金融機関などに債権放棄を求める以上、通常は100%減資の形で株主責任は問われるべきだ。簡単なことだ」
 ――独特の文化を引きずる大企業の再生で最も大切な点は何か。
 「経営陣を刷新し、意思決定のやり方を変えるのが第一歩だ。労組との労働協約改定のための交渉も断固たる決意でやり遂げないといけない」
▼アリックスパートナーズ
 米国の企業再生コンサルティング会社。エンロンやワールドコムなど大型の破産案件に携わってきた。コッチ氏はGMのほか、米流通大手Kマートなどの法的整理にもかかわった。

現役・OB思い複雑
 日本航空の経営再建問題が19日、最大の節目を迎える。再建手法などを巡る協議の行方を目をこらして見守るのは、日航の現役社員(1万5700人)や退職者(8900人)たちだ。日本を代表するフラッグキャリアで働く誇り、甘い経営体質への疑問、そして再生への期待――。会社更生法申請という大きな曲がり角を前に複雑な思いが交錯する。(1面参照)
年金減額同意、「再生のため」
▼危機感
 30代の客室乗務員の女性は昨年暮れ、欧州からのフライトを終えて成田に着くと突然呼び出された。同僚らとともに見せられたのは、会社が作った約40分間のビデオ映像。企業年金や国民年金の仕組みを説明するもので、終了後企業年金減額への同意を求められた。
 「ごねても結果は一緒」。一方的な説明に納得いかない部分もあったが、同意書にサインした。世界を飛び回る客室乗務員の仕事には誇りがある。「会社がなくなったら元も子もない」という危機感に背中を押された。
 女性は「仕事にやる気のない50代の社員でも年収1000万円。組合に逆らえない上層部を一新しないと、会社の体質は変わらない」と話す。
 地上職として40年近く勤めた男性OB(64)も年金減額に同意。「OBが悪者になるのは納得がいかない」と感じるが、「バブルが崩壊した時から今の状態になるのは予想ができた。会社再生のためには仕方がない」。
まずは人材立て直し
▼不満
 客室乗務員として30年余り勤務した男性OB(73)は年金減額に同意しなかった。絵画のコレクターでもあり、年金を減らされても生活には困らない。
 拒んだのは「年金は本質的な問題でない。変えるべき部分はほかにある」と思うからだ。
 最近日航機で旅行した際「富士山は見えますか」とチーフパーサーに尋ねたが、すぐに答えが返ってこなかった。「どこを飛んでいるかは客室乗務員の基本。質が落ちている」と感じた。「まずは人材の立て直しこそ重要」と男性は話す。
元気な日航に戻って
▼期待
 「世界一の航空会社になると信じていた」。寂しそうに話すのはエンジン部門の整備士だった男性OB(61)。工業高校卒で入社して以来、40年以上勤めた日航の現状が今も信じられない。
 初任給は他社の同期の約2倍。冬のボーナスは月給6カ月分で、いきなり金額を超えられた父親が腰を抜かした。「路線も増え続け、会社は上り調子だった」と振り返る。
 だが2005年に相次いだ運航トラブル、増えすぎた労働組合など、ほころびが出てきたと感じた。「変えようにも変わらない“親方日の丸”の悪さが出た」
 年金減額には賛成。現役社員に協力したいからだ。「社員は変わらず頑張っている。元気な日航に戻ってほしい」と願うように話した。

2010年01月19日