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日航法的整理、再生はできるか(上)(日本経済新聞2010/01/20)

企業再生

日航法的整理 再生はできるか(上)
政官業もたれ合い終止符
 「日本の翼」と呼ばれた日本航空が会社更生法の適用を申請した。経営悪化の引き金は世界的な金融危機だが、背景には根深い構造問題がある。問われているのは一企業の再生ではなく、この国の政官業に長く根付いてきた古い日本型システムをどう作り直すかだ。
繰り返した危機
 事態が急転したのは昨年12月20日前後。企業再生支援機構が法的整理の意向を日航と金融機関に伝えた。当初は私的整理に向けた条件闘争との受け止め方もあったが、政府と機構の足並みは崩れない。日航と金融機関は抵抗したが、「政治」の意志に跳ね返された。
 日航の危機は今に始まった話ではない。過去10年だけでも最低3回は資金不足による「倒産」が現実味を帯びた。最初は米同時テロで旅客が激減した2001年。2番目は新型肺炎の流行で乗客が減った03年。そして金融危機で世界経済が冷え込んだ昨年の春先だ。
 だが、この3回の危機を日航はあっさり乗り切った。経営改革を進めて、自力で逆境を跳ね返したのではない。「空の足を守る」という名目で、政府系金融機関が緊急融資を実行し、救いの手を差し伸べたのだ。
 1990年代のバブル崩壊後に「政官業のトライアングル」が批判されたが、航空の世界ではごく最近までこの三角形が強力に機能してきた。行政は航空会社に、着陸料など国際平均の2倍に当たる割高な「公租公課」を課して、各地に空港をつくり続けた。政治も地元利益を優先し、バラマキ的な投資を支持した。
 航空会社も正面からは異議を申し立てなかった。高い公租公課の見返りに手厚く保護されるのなら、「緊急事態に備えた一種の保険料」と割り切ればいいからだ。
 だが3者のもたれ合いで時間を浪費する間に事態は悪化した。日航の債務超過は数年前からささやかれたが、フタを開けると、その額は8千億円超。日航の過去最高益は410億円(01年3月期)で、それを20年続けないと埋まらない金額だ。
 こうした事態にケリをつけ、透明性の高い法的整理を選んだのは一歩前進といえる。再生機構首脳は「法的整理で飛行機が止まったらどうする、という声があるが、中途半端な私的整理でこの会社がよみがえるのか。万全の準備を整え、外科手術に踏み切るしかない」と明かす。
司法側にも変化
 先送り路線から決別できた最大の要因は、政権交代だ。過去のしがらみを引きずる自民党政権のままでは、こうした結論にはまず至らなかっただろう。
 見逃せないのは司法の変化だ。企業再生を扱う東京地裁商事部は硬直的だった更生法の運用を柔軟にし、使いやすい制度に変える検討を進めてきた。商取引債権の全額保護や、つなぎ融資の優先弁済――。今回採用される一連の手法に、裁判所は早い段階でゴーサインを出したようだ。戦後日本では企業再建の主役はメーンバンクが果たしたが、今回は銀行の反対を押し切り、司法に解決が持ち込まれた。企業再生のあり方が変わる先駆けになるかもしれない。
 だが法的整理は出発点にすぎない。稲盛和夫氏ら新経営陣の最大の仕事は、再生に不可欠な社員の意識改革だ。政治も日本の空の活性化に向け、新たな航空・空港政策を打ち出す必要がある。それは古い政官業システムと決別し、透明性の高い日本システムを再構築する作業ともいえる。
 日航再建に投じられる公的資金は総額1兆円近くにのぼる。これだけの資金を要するまで事態を放置した責任は民主党政権にはないが、再建失敗で巨額の国民負担が発生すれば、それは現内閣の責である。
 慢性的赤字が続き、借金に依存しなければ立ちゆかない日本の財政は、どこか日航と重なり合う。目先の痛みを避ければ、いつかより大きな痛みがやってくる。かつて輝いていた日航の転落は国や企業にこんなメッセージを投げかけている。

2010年01月20日