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証券監視委、インサイダー取引摘発急増(日本経済新聞2010/01/25)

不適切な会計処理

調査手法向上、不正逃さず
課徴金制度で処分素早く
売買データの集約電子化
企業役員を登録 防止策も拡充
 未公表の重要な企業情報を使って株式を売買するインサイダー取引の摘発が相次いでいる。証券取引等監視委員会が2009年に課徴金納付命令勧告の対象としたインサイダー取引は08年より9事案増え21事案。うち14事案は自社株や業務に関与した社外の関係者が手を染めていた。「潜在的にインサイダー取引が増えているかは分からない」(証券監視委)が、課徴金制度の導入から4年を経て調査手法が蓄積され、不公正な取引がより確実に見つかっている。
証券監視委、インサイダー取引摘発急増
 「上場企業が会社更生手続きを申請すれば株価は大きく下がる。会社関係者に損失を回避したい気持ちがよぎるのは否定できないが、一般株主には知り得ない情報だ」。08年10月に経営破綻した山崎建設。破綻前に自社株を売り抜けた同社社員への課徴金納付命令勧告を公表した09年12月の記者会見で、証券取引等監視委員会の課徴金・開示検査課の後藤健二課長はこう“苦言”を呈した。
 この発言の背景には、会社関係者によるインサイダー取引の相次ぐ摘発がある。昨年10月30日には、オリエンタル白石の社員3人が経営破綻の情報を公表前に知り、自社株を売却したとして課徴金納付命令勧告の対象になった。
刑事罰だと長期戦
 金融商品取引法では未公表の重要事実を使い株式を売買するインサイダー取引を禁じている。刑事罰の場合、違反者は5年以下の懲役、罰金500万円以下が課される。刑事罰では、捜査当局は裁判で被疑者が有罪であることを立証する責任がある。高度な立証が求められ、時間もかかるため、素早い対応には難しい面もあった。
 そこで、05年から違反者に対する行政処分として課徴金制度が導入された。課徴金では刑事罰と同じレベルの立証は求められず、機動的な調査が可能になった。納付命令を受けた対象者が不服を申し立てない限りは処分が決まる。
 インサイダー取引に使われる重要事実は株式公開買い付け(TOB)や業績予想修正、不適切な会計処理などだ。
 摘発で最も多いのはTOBの情報を事前に入手し株式を売買したケース。09年は21事案のうち10事案を占めた。TOBは、企業や投資家が特定の株式の3分の1超を取得する場合、買い付け価格を公表し一定期間応募を受け付ける仕組み。一般にTOB価格は直近の株価より高くなる。事前に株式を入手すれば利益を得る確率は高く、インサイダー取引を誘発しやすい。
 「監査役にはより高い倫理観と法令順守意識が求められる」と記者会見で証券監視委の幹部が指摘したパイオニア監査役(当時)によるインサイダー取引もTOB情報が重要事実。パイオニアが東北パイオニアに対しTOBを実施すると知り、部下の名義の口座を使って公表前に3200株を約560万円で買い付けたという。1株2210円のTOB価格から算出すると、単純計算で1株約460円の利益を得たことになる。
 業務を請け負った社外の者による取引も摘発された。証券監視委が09年10月23日に課徴金納付命令勧告の対象としたのは、公開買い付け者から、相手先のブランド価値の評価を請け負ったコンサルティング会社の社員だった。
 日々の取引に目を光らすのが証券監視委の市場分析審査課だ。市場分析審査課の岸本学課長補佐は「重要事実の公表前後のタイミングの良い売買などは対象」という。疑わしい取引については証券会社から売買データを取り寄せ、会社関係者による売買がないか審査する。08年事務年度(08年7月~09年6月)の対象は1031件。1日4件前後の売買を審査した計算だ。
「端緒」把握で成果
 09年1月稼働の証券券監視委と取引所、証券会社を専用線で結ぶ「コンプライアンスWAN」を使って売買データを取り寄せる。これまでは証券会社に依頼し、紙やフロッピーディスクなどで取り寄せていたが、今は専用回線で届く。「作業が効率化し端緒をつかむ能力は向上している」(市場分析審査課)。疑いが濃い場合には、特別調査課や課徴金・開示検査課が本格的に調査に乗り出す。
 未然防止も重要だ。日本証券業協会は自社株を使ったインサイダーを防止しようと上場企業の役員をあらかじめ登録し、証券会社に情報提供するシステム「J―IRISS」を09年5月に始めた。1月13日時点で1447社を登録した。証券会社が口座の名義人の氏名や住所、勤務先などが、役員の登録情報と一致するか照合を依頼する。顧客に直接、確認し、上場企業の役員ならば内部者登録する。
 企業が未公表の重要事実をなるべく持たないのも防止策だ。09年は証券監視委が重要事実の発生を認定した時期から適時開示まで3カ月かかった課徴金事案もあった。経営統合など時間がかかる案件もあるが、経営会議などで方針が固まった時点での開示も検討すべきだ。
取引審査と課徴金納付命令勧告
自社株や自社の関与した業務で知った情報を使ったインサイダー取引(2009年)

2010年01月25日